本誌記事 ケーススタディ スターティア

スターティア

営業からカスタマーサクセスを「分業」
個人のスキルを活かして組織力強化を図る

Gainsight主催のカスタマーサクセスイベント「Pulse2024」で、「非SaaS企業のカスタマーサクセスへの挑戦」が取り上げられた。日本においても非SaaSにおけるカスタマーサクセスの組成事例が登場している。そのひとつが中小企業向けにネットワーク構築などを行うスターティアだ。同社は、営業プロセスを分業化しカスタマーサクセスを組織化、社員の個性を最大限に生かし組織全体の総力強化を目指す。

西沢一志氏
カスタマーサクセス部 部長 西沢一志氏

 スターティアは、「存続と成長に寄り添う」をミッションとして、主に中小企業を対象に、複合機やビジネスフォンの販売、ネットワーク構築・保守、Webサイト制作などを提供している。

 従来、営業部門が担当してきた「契約後」の業務を分業し、2019年4月にカスタマーサクセス組織を立ち上げた。現在、約50名が在籍。顧客ごとの専任担当制としており、約5名の営業チーム(課)につき、1名ずつのカスタマーサクセスが担当する。

 カスタマーサクセス部設立の背景について、部長の西沢一志氏は、「従来、営業担当者が契約後の支援から導入、アフターフォローまで行っていましたが、当社の代表が“個人の特性を生かし組織力を強化して生産性を向上する”との意向を示し、分業化に踏み切りました」と説明する。セールスが得意なメンバーはセールスに注力し、後方支援を得意とするメンバーにはカスタマーサクセスとして契約後の支援をしてもらう。向き不向きを見極め、また選択肢の幅を広げ、個々の適性に合う業務に集中することで得意分野を伸ばし、組織力強化を図った。

主業務は契約後の顧客支援
各部門をつなぐハブとして機能

 カスタマーサクセスの主な業務内容は、「ネットワーク構築サービス」などにおける契約後から導入完了までの支援だ。具体的には、現地調査、要件定義、発注・管理、工事の日程調整などで、「顧客の業務環境に必要なネットワーク環境の特定」や「工事などの各種日程を顧客および各部門と調整し、設定日までに商品を準備する」など、営業や技術、管理部などの各部門と顧客とをつなぐハブとして機能している。一般的なSaaSにおけるカスタマーサクセス業務とは異なるが、欠くことのできない重要な「契約後の顧客支援業務」だ。

 なお、導入後のサポート業務は和歌山県内のコールセンターに集約され、一次受付を行い、各担当にエスカレーションされる。

図 スターティアの業務の流れと対応組織
図 スターティアの業務の流れと対応組織

サクセスのスキルや特質は
営業とサポートの中間にあたる

 中小企業向けのサービスである特性上、顧客側の担当者は、他業務との兼任であるケースが多い。技術者ではない担当者に対して専門用語を使わず、やさしい言葉でわかりやすく説明しつつ、寄り添った対応が求められる。また、顧客の要望を聞き出すコミュニケーション力、決まったスケジュールを推進する調整スキルに加えて商材の知識も必要となる。「カスタマーサクセスに向いているのは、“誰かのためになりたいと頑張れる人”。当社にはカスタマーサポート部門もありますが、カスタマーサクセス人材は、営業とカスタマーサポートとの中間にあたるような性質が求められます」(西沢氏)。現在、約半数のメンバーが営業経験者であるほか、社内の異動制度を活用して、自らカスタマーサクセスを志願して異動してきたスタッフもいる。

 教育方法として、新人向けおよび情報のアップデートに活用しているのが、全社で導入しているスタディストのビジネスマニュアル作成ツール「Teachme Biz」だ。一般的にマニュアルというと、文字や図版が並んだ資料が多いが、データでも印刷物でもWordやPowerPointのマニュアルは読みにくく、知識定着が難しい。同ツールは、テンプレートに沿って文字と画像を挿入していくと、紙芝居のようなステップ構造の説明画面が作成できる。画像や動画の編集もできることから、工事や資材の手配の流れや注意点などの説明動画も容易に作成できる。

 また、商材の知識をアップデートするため、不定期にミニテストも実施している。「『あれ? これなんだったっけ』と、自分がわかっていないということを気付かせるのはひとつの教育手法。一方的に、知識をアップデートしてねという働きかけでは興味を持ちにくく定着も図りにくい。自ら学ぼう、復習しようというきっかけを提供しています」と西沢氏は話す。

 さらに、日常の“失敗から学ぶ”ための仕組みも構築している。グループチャット内に「MaNaBo(マナボ)」というチャンネルを作り、トラブルが起きた際には、その概要と事前に取るべきだった準備や今後の対策、結果などを共有している。「失敗に関する情報はマネジメント側に集約されたり、たまたま関わった人や居合わせた人のみに共有されるということが多いのではないでしょうか。ですが、この失敗こそ現場が知らなければいけない重要なナレッジの宝庫です。一つひとつの失敗を無駄にせず、全スタッフがナレッジとして共有することで、失敗を減らす仕組みとしています」(西沢氏)。

(月刊「コールセンタージャパン」2024年8月号 掲載)

2024年07月20日 00時00分 公開

2024年07月20日 00時00分 更新

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