2025年のカスタマーサクセス市場展望
利用定着/拡大、退会抑止。カスタマーサクセスの概念と活動は、否定すべき要素がほとんどない。コスト部門と認識されるでもなく、顧客のことを最も理解できるポテンシャルも持っている。にもかかわらず、ITをはじめとした関連市場は成立にも至っていないのが現状だ。その背景に何があるのか。2025年を迎えるに際し、突破口をどこに見出すべきかを検証する。
「カスタマーサクセス」の認知度や採用市場における求人数がここ数年、伸長していることは、さまざまな調査からも明らかだ。
「顧客の成功を支援する組織」という、業種業態問わず、経営から現場に至るまで誰もが否定しない概念である以上、人材/BPO市場、IT市場ともに成長が期待できる領域であることは間違いないが、課題は山積している。
図に、人材育成からIT活用、他の顧客接点との連携など、これまでの取材やサーベイなどから抽出した課題を列記する。
カスタマーサクセスの実践には、深い顧客理解に基づく「寄り添う姿勢」が求められる。その結果、成功事例の多くは「ハイタッチ」対応の紹介だ。もちろん、その多くが仕組み化は図られており、最低限のITも活用されている。事例の多くがSaaS企業なので、提供ソリューションの利用状況に基づく顧客理解とアプローチは可能だが、言い換えればそのレベルでとどまっていては、属人化からは逃れられない。BIツールを利用したVOCや顧客のニーズ分析など、CRMの先進事例を応用したうえで、テックタッチやロータッチ手法を組み合わせた顧客へのアプローチが求められる。
属人的なハイタッチ対応のみでは、人手不足対策に有効なはずのBPO活用が難しい。アウトソーシングできる業務領域を洗い出したうえで業務を型化できれば、テック/ロータッチも可能となる。
属人化から抜け出せない理由のひとつに、KPI/KGIの設定が挙げられる。「カスタマーサクセス」の定義と可視化には大きな困難を伴う。クライアント企業の収益が伸びたとしても、提供しているソリューションの貢献度の数値化は難しい。また、オンボーディングの状態に関しても定義が難しく、チャーン(離反)抑止が場当たり的な施策にとどまりがちだ。コールセンターのように生産性やコミュニケーション品質を測定する指標や手法も存在しないため、可視化しやすいアップ/クロスセルの成果が偏重され、CX(顧客体験)が軽視される可能性すらある。
すべての顧客接点共通の目的・目標であるLTVの最大化をKGIとして、現場に落とし込むKPI設定のメソッド確立が求められそうだ。
カスタマーサクセス市場においいて停滞感が強いのが、ITソリューション市場だ。2020年以降、CRMやカスタマーサポート周辺のベンダーも参入したが、早くも撤退企業が散見される。
その大きな理由として「ユーザーにスタートアップのSaaS企業が多く、IT投資の余力がない」ことを挙げる識者が多い。本来ならば点在する顧客関連情報を取りまとめて、次のアクションを示唆するプラットフォームが必要なはずだが、コールセンターなどに比べると現場の平均年齢が若く、もともとIT企業が多いだけにリテラシーも高いため「(ITを導入しなくても)スプレッドシートで業務が回ってしまう」ことも背景としてありそうだ。また、現場で生産性が重視されていないので、効率化を図るナレッジソリューションやFAQ、顧客向けのテックタッチソリューションの導入機運も今ひとつ高まっていない。
しかし、属人化を防ぐには、IT活用は欠かせない要素だ。また、顧客理解が難しい非SaaS企業へのコンセプト拡大のため、IT導入のベストプラクティスの登場に期待したい。
カスタマーサクセスは、その歴史が浅いため、ロールモデルになり得る人材が少ないのはやむを得ない。資格や検定試験も皆無で、キャリアパスも曖昧だ。これは設立された日本カスタマーサクセス協会などの活動に期待したいところだ。
最も大きな課題と考えられるのが、他の顧客接点組織との連携だ。新規獲得をミッションとする営業部門とは、“トスの出し手と受け手”の関係にあるので比較的、密接でも、コールセンターなどのカスタマーサポート、一次接点となる可能性が高いWeb企画部門など、「同じ顧客」と相対する顧客接点でありながらほぼ連携していないケースは多い。
とくにコールセンターをはじめとしたサポート部門は、顧客満足度と生産性の両立に取り組んできた歴史が長く、共有可能なナレッジやITソリューションは数多い。とくに生成AI活用については、多くの業種で最前線に置かれている部門だ。自社のサポート部門との連携はもちろん、他社のサポート事例から得るヒントは大きいと推察できる。
2025年以降も、あらゆる商材がクラウド化する以上、その利用定着を支援するカスタマーサクセス部門は、必要不可欠な存在となる。にもかかわらず、少なくともITとBPOに関しては、市場と呼ぶべき規模には成長していない。ベストプラクティスの登場が待たれるところだ。
(月刊「コールセンタージャパン」2025年2月号 掲載)
2025年01月20日 00時00分 公開
2025年01月20日 00時00分 更新