【トレンド】 在宅コールセンター

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[トレンド]在宅コールセンター

高スキル・専門人材確保の切り札
採用難時代を乗り切る「在宅コールセンター」

官民あげて推進の機運が高まるテレワーク。しかし、電話を活用する職場の最たるものでありながら、普及の気配が見られないのが「在宅オペレータ制度」だ。編集部は現状と将来性を探るべくアンケートとヒアリングを実施。「検討したことはない」という回答が圧倒的多数を占めた一方、「業務」を絞って運用開始した事例もある。可能性を再検証する。

 コールセンターにおける在宅オペレータ活用の有用性については、以前から語られている。例えば、育児・介護などによる優秀な人材の離職防止。通勤圏外にいる人材の雇用。オフィススペースの縮小化や通勤費の削減に伴う運営コストの低減などだ。とくに3.11の東日本大震災以降は、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策の一環として注目された。ITベンダーなどもソリューションを訴求した。しかし、未だ広く普及するに至っていない。

根強い“セキュリティへの不安”
運営管理の難しさが普及を阻む

 「在宅型運営のメリットは多く語られていますが、運用の難易度が高いことも事実。普及には、メリットの追求ではなく、現状の課題解決の手段として在宅型が選択肢になり得るかという観点で検討すべき」と、コールセンターのコンサルティングを手掛ける、ホライゾンBPC代表の堀 雄一氏は指摘する。

 例えば、採用難・コスト(人件費)対策ならば、第一の選択肢は「地方移転」の方が一般的だ。数多くの企業のコールセンター構築・運営を手掛けるBPOサービス大手 経営幹部は「地方進出にかかるコストと、在宅型運営に伴う手間やリスクを比較した場合、クライアント企業はまだ地方進出を優先します。その方が、メリットが大きいと考えているからです」と現状を分析する。ユーザー企業の中で在宅コールセンターの優先度はかなり低いということだ。

図1 在宅コールセンターに対する期待と懸念(出典:ホライゾンBPC)

図1 在宅コールセンターに対する期待と懸念(出典:ホライゾンBPC)

 コールセンタージャパン編集部では、コールセンターでの在宅オペレータの活用意向を探るべく、アンケートとヒアリングを実施した。結果、17社のうち、在宅オペレータを活用しているのはわずか1社。他の16社で、過去に採用を検討したことがある企業は3社、まったく検討していない企業は12社、導入を見据えた実証実験を進めている企業が1社だった。

 在宅オペレータを採用しない理由について聞いた結果を図2にまとめる。依然として情報セキュリティへの懸念、応対品質管理やエスカレーション対応の難しさを挙げる企業が多い。前者に関しては、シンクライアントや専用回線を利用することで、ある程度は回避することが可能だ。また品質管理やエスカレーション対応についても、統合型コンタクトセンター・プラットフォームの進化により、遠隔でのマネジメントにも十分に応えられるようになってきている。

図2 在宅コールセンターを検討しない理由

図2 在宅コールセンターを検討しない理由

 情報セキュリティ云々は、いわば見せかけの課題に等しい。真の理由は「従来型の手法を上回るメリットが見出せていない」ことにある。では従来型では実現困難な運用上のメリットは何だろうか。

士業・獣医・介護士──
有資格者を全国から雇用

 端的に挙げれば、高スキル人材の雇用維持だ。“専門性”の確保と言い換えることもできる。

 このことは、より高度で専門性のあるサービスを提供する新たなビジネスの創出も可能ということだ。在宅型で必要なスキルを持つ人材を“全国津々浦々”から集められるわけだ。前出の堀氏は「多言語対応センターなどは、通勤できる範囲で人材を探すことが困難です。士業など特定の資格を持つ人でないと対応できないような業務の場合も然り。そのような場合に在宅型運営が威力を発揮できるはずです」と指摘する。

 実際、都内の動物病院では獣医を在宅で雇用し、ペット保険加入者などに対して24時間対応の健康相談サービスなどを提供している。また、独居老人などに向けてアウトバウンドで様子を伺う介護サービスなどもはじまっている。つまり、“専門性”の高いサービスをきっかけに、在宅型運営が広がる可能性を秘めている。

メール、チャット、架電、受電
難易度の段階を踏みノウハウ蓄積

 従来の業務でも人手不足解消のために在宅型運営を導入する企業もあるだろう。それには、業務の親和性に応じて段階を踏み、徐々にノウハウを積み重ねていくと管理側の負担も少なくて済む(図3)。

図3 対応チャネルと在宅型運営の難易度(出典:ホライゾンBPC)

図3 対応チャネルと在宅型運営の難易度(出典:ホライゾンBPC)

 例えば、FAQやテンプレートの利用が主体で返信前の査読が可能なメール対応は在宅型が向いている。慣れてくれば、リアルタイム性が求められるチャット対応まで実施。さらに計画的に実施できるアウトバウンド業務で電話対応のノウハウを蓄積し、最終的にはインバウンド業務まで展開していく。

 留意すべきは労務管理だ。労働基準法、労働契約法、最低賃金法など関連する法令は複数ある(図4)。社会保険労務士など専門家のアドバイスを参考に、雇用形態や人事制度を整備する必要がある。

図4 人材の労務管理における留意点

図4 人材の労務管理における留意点

 以上のように、従来のマネジメント手法では通用しない専門的な業種や業務での検討は進むだろうが、現段階で一気に採用企業が増える要素はほとんど見当たらない。しかし、必要なテクノロジーも出揃い、しかも安価に利用できる。いよいよ深刻化する採用難に備えるという意味では、継続して検討する価値がある運用モデルといえそうだ。

※記事出典:月刊「コンピューターテレフォニー」2016年1月号に掲載した記事を再編集して転載しました。
(記事は雑誌掲載時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

2024年01月31日 18時11分 公開

2016年10月12日 10時32分 更新

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