学習用ソフトウエアやツールを導入しても、教える側が授業で使いこなせなければ、子供たちの学びにはつながらない。ベネッセコーポレーションは、小中学校向け学習ソフトウエア「ミライシード」のカスタマーサクセス(CS)業務を展開。そこには教員同士が実践を共有するコミュニティ施策を組み込んでいる。活用に長けた教員を認定し、その事例を全国へ届ける仕組みを構築。企業からの情報提供にとどまらず、利用者が互いに学び、自ら活用を広げる環境づくりを進めている。
文部科学省が2019年に提唱した「GIGAスクール構想」。全国の小・中学校、高校などにおいて高速大容量の通信ネットワークを整備、児童・生徒1人に対して1台のコンピュータまたはタブレット端末を配布する計画で、2020年から学習指導要領も改定された。ベネッセコーポレーションが展開するミライシードは、習熟度に応じて出題するAIドリル、テスト、意見を共有する協働学習などを支援するアプリを搭載している。1人1台端末の普及を背景に導入が広がり、「(2026年段階で)約1万2000校が利用しています」(学校カンパニー 小中学校事業本部本部長の岡部 優氏)。
主に市区町村の教育委員会が導入を決め、費用を負担している。しかし、日常的に使うのは教員と児童・生徒だ。意思決定者である教育委員会への提案だけでなく、学校現場で価値を実感してもらう必要があるのは言うまでもない。「実際に使っていただくユーザーが何を求めているのかを考え抜かなければ、選ばれ続けることは困難です」(同本部小中学校営業部 教育DX推進課課長の一杉元嗣氏)。
GIGAスクール構想以前はオンプレミス型で展開していたため、岡部氏は「売り切り型だったのでCSという概念がなかった」と振り返る。GIGAスクール構想によって学校現場でもクラウド化が進行。オンプレミスでは把握しにくかった利用状況が見えるようになり、同社はCSを中心に、営業、マーケティング、商品企画・開発が連携する体制へ移行した(下図)。

しかし、体制を変えても、「当初は活用率が思うように上がらなかった」(岡部氏)という。 その背景には、ソフトウエアの使いやすさだけでなく、「授業でどう使うかの啓蒙」という課題があった。黒板や紙を中心に授業を進めてきた教員に、端末とソフトウエアを提供するだけでは実践は広がらない。結果、使いこなす教員とほとんど使わない教員の差も生じていた。
そこで重視したのが、教員が自ら活用を進める「自走化」の仕組みだ。中核となる「ミライシードDXエデュケーター」は、活用に長けた現役教員を同社が認定する制度。応募時に提出された事例などを審査し、必要に応じて面接も行う。2026年10月現在、認定教員は700名を超えている。 「他の先生が『こういうふうに使えばいいんだ』と、真似できる存在を認定したことが、CS活動の起爆剤になりました」(岡部氏)。企業が機能を説明するだけでなく、同じ学校現場に立つ教員が“実践”を示すことで、使い方を具体的に伝えている。
認定教員が自律的に活動しているのが、全国各地のコミュニティだ。オンラインに加えて地域ごとの対面開催もあり、教員同士が活用事例を持ち寄っている。運営は現役教員が中心となり、同社のCS担当者らが支える。利用者同士が学びあう場で、企業(ベネッセコーポレーション)はあくまでそれを支援する立場に徹している。
生まれた事例は、自社サイトや冊子を通じて全国の学校へ展開。さらに「ミライシードアワード」で優れた実践を表彰し、取り組みを広く紹介している。認定、交流、事例といった発信をつなぎ、次の実践者を増やすアプローチだ。
しかし、これだけで利用格差が解消できるわけではない。同社は重要なオンボーディング指標の1つとして、「一度も使ったことのない教員を減らす」ことを挙げる。教育委員会と連携し、校内で推進する立場の校長・教頭にも価値を理解してもらい、最も高いハードルとなる“最初の利用”を後押ししている。
コミュニティを軸とする活動は、事例を集めるだけでは完結しない。「こんなふうに授業が変わったというアウトカム(成果)を、しっかり教育委員会に届けることもCS活動の重要なポイントです」(一杉氏)。利用者が生んだ成果を、契約更新を判断する側に伝えるところまでが支援の範囲といえる。
同社内では、CSを中心に開発、営業、マーケティングが顧客の声を検討する。営業が得た改善要望とサポート拠点であるコールセンターに寄せられた要望も共有し、商品へのフィードバックにつなげている。現場の声を、活用支援と商品改善の両方に活かす体制だ。
BtoBのSaaSソリューションでは、ユーザー会と称するコミュニティを展開する企業もあるが、多くは企業側からの告知や事例紹介に終始しやすい。同社では、そうした通り一遍の交流の場にとどめないCSのあり方を追求している。利用者が実践を生み、仲間に広げ、その価値を意思決定者にも届ける。同社は、この循環を支えながら、活用が進まない層に働きかける。契約の継続と、学校現場での価値実現を両立する仕組みといえそうだ。