プロダクトを納めて終わる関係から、顧客が使いこなし、成果を得るまで支援する関係へ。SaaSなど継続利用を前提とする事業では、顧客の成功を能動的に支えるカスタマーサクセス(CS)は極めて重要な取り組みだ。しかし、多様な事業を抱える大企業では、活動を現場任せにするとノウハウや実践力に格差が生じやすい。NECは2023年、全社横断型の支援組織「カスタマーサクセスCoEグループ」を設立。2026年8月段階では17名の体制で約50組織の立ち上げを支え、各部門が自らCSを実践できる環境を整えつつある。
同社がCSに取り組みはじめたのは2017~2018年ごろだ。従来型のオンプレミスからSaaS事業への移行・拡大を図るなかで、販売後の利用定着や継続を支える必要性が浮上した。従来は、システムを構築・納品した後の顧客支援は保守サポートへ移り、営業は次の新規案件に着手する流れが中心だった。
大手顧客には営業が密接に関与していたものの、すべての顧客に同じレベルの対応は物理的に不可能だ。結果、「接点が薄くなるほど利用状況を把握しにくい」(マーケティング推進部門 マーケティングCoE統括部 カスタマーサクセスCoEグループ ディレクター、服部佳正氏)という課題が生じていた。
問い合わせを受けてから対応する保守・サポートに対し、CSには顧客の活用を「先回り」して促す役割がある。当初は、その担い手もノウハウも十分ではなかったため、プリセールスに携わる現場が必要性を感じ、活動をはじめた。その際、「セールスフォース・ジャパンなど、取り扱うSaaSベンダーのCS実践も参考にした」(服部氏)という。
ただし、NECが扱う事業領域は極めて広い。事業ごとに取り組むだけでは、進め方も進行度合いもバラつきが生じる。そこで経営層の後押しを得て立ち上がった組織が、全社を支援するCoEだ。営業やプロダクトなど特定の領域に偏らず支援するため、マーケティング部門に置いた点も特徴といえる。結果的に、全社組織として予算を確保できるようになり、共通基盤の整備にもつながった。

CoEが担うのは、各現場の顧客対応を引き受ける「代行」ではない。「現場に入って実務をするというよりは、現場の方がうまく立ち上がれるように、CS活動の支援や人材育成を担う」(服部氏)という役割だ。 支援は大きく3つある。第一は、CSの立ち上げと定着の支援。いわゆる「イネーブルメント」だ。顧客情報の整理から対象顧客の選定、具体的な活動の設計へと進むプログラムを用意し、教育やレクチャーを行う。社内コミュニティも運営し、部門を越えて相談、知見を共有できる場を設けている。
第二は、啓発と人材育成だ。ポータルで基礎知識や事例を紹介し、実践をはじめたい人にはハンドブックや研修を提供する。さらに、社内の職種としてCSを位置づけ、必要なスキルを整理している。学習機会の提供に加え、仕事としての役割を明確にする取り組みである。
第三は、活動を効率化・高度化するIT基盤の提供。CoEがカスタマーサクセス基盤の全社提供を開始しているが、全組織に一律に利用を求めているわけではない。規模が大きく管理が複雑な事業と、立ち上げ段階にあってもっと簡易なツールでも管理できる事業では、得られる効果が異なる。基盤を用意するだけでなく、事業の状況に応じて使い分ける視点を持ち、アドバイスしている。
CS活動そのものも強制ではない。「プロダクトや営業部門の業績拡大、最大化に寄与する活動であることを伝え、賛同したところから進めています」(服部氏)。
どうしても、とくに営業では新規案件の獲得が優先されやすい。利用定着から継続、追加提案へとつながる活動の意味を示し、現場の理解を得る。CoEの評価も普及の広がりだけでなく、支援先でどのような事業成果が生まれたかを重視している。
今後の課題は、個々のプロダクトを軸としたCSを、顧客への一貫した価値提供へ広げることだ。現状は、営業とプロダクト側がそれぞれの立場で活動、連携している。これをSI事業や導入後の活用まで含めてつなぐ役割、進め方の整備を検討している。
デジタル基盤にも、習得や入力に手間がかかるという課題がある。そこで、AIを窓口に設置し、必要な情報を検索・登録できる仕組みの検証をはじめている。保守・サポート部門が持つ顧客の声の活用も検討しているが、情報の利用条件や共有範囲など、解決すべき課題は残っている。顧客情報の統合やAI活用は、NECといえども全社で完成した段階ではないということだ。
同社の取り組みが大企業のロールモデルとなるのは、CSの実務を中央組織(CoE)が代行するのではなく、各部門の自律的な実践を共通の手順、人材育成、基盤で支えている点にある。全社横断組織の役割は、一律の活動を広げることにとどまらない。事業ごとの違いを踏まえ、部門の境界を越えて顧客の成果を支える仕組みを育てることにあるといえそうだ。