カスタマー・エクスペリエンスの基礎~今、必要とされる顧客体験第2回

 

クレーム/口コミの影響を数値化――
顧客の行動からCS/利益の関係を紐解く


CS追求が経営に貢献すると認められていないコンタクトセンターは少なくない。CSと利益の因果関係を示すことが難しいためだ。だが、これを示さずにセンターの役割明示、認知向上はありえない。確かに、CSの数値化は難しい。そこで、CS低下がいかに売上機会の損失をもたらすかという逆のアプローチで、CSがもたらす財務的影響について考える。

著者:ラーニングイット 河合晴代
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 「効果が数値化できないものは投資対象にはならない」としている企業は多い。そして、まさにここが、センター運営の予算確保に苦労している最大のポイントだ。カスタマーサービスに従事している者にとって、「顧客が満足すれば、売上/利益もアップする」というのはあまりに当たり前の事だ。顧客が企業に対し良い印象を持てば、ロイヤルティが上がり、リピート率や購買単価もアップする。友達にも勧めてくれ、新規顧客獲得にも貢献できるのだ。しかし、これを数値化して証明できるセンター長は、残念ながら多くない。

今回から2回にわたって、「カスタマー・エクスペリエンスの企業における財務的影響の数値化」について論じる。

悩み所は「根拠」と「因果関係」
売上に響く要素はCSだけではない

 CSの財務的効果を数値化にあたって、まず考えるのは、「どの数値で効果を測るか?」だ。売上アップ率か、利益率か、リピートオーダー率か。最初から悩ましい問題にぶつかる。

 次には、その根拠となるCSをどのように測るべきなのか、果たして既存の「CS調査」方法は妥当なのだろうか。「誰に(見込み顧客、新規顧客、特定のセグメントの顧客、など)」「いつ(購入前問い合わせ、注文時、購入後問い合わせ、など)」「何人に(既存顧客の何%、問合せ者の何%、など)」「どのように(郵送、Web、謝礼の有無、など)」――これらを悩み出すときりがない。

 最大の難関は売上/利益アップの要因とCSの因果関係の証明にある。売上/利益アップの要因は、マーケティングの4P(プロダクト、プライス、プロモーション、プレイス)に代表されるさまざまな要素から成っている。つまり、CSだけを要因に絞ることは不可能に近いのだ。

「CSが低下したら…」のアプローチ
“売上機会損失”から課題を探る

 まさに何から手をつければいいのかわからない八方塞の状況だが、ここでまったく逆の発想をしてみる。「CS向上」からのアプローチがダメなら、「CS低下」から考えてみるのだ。つまり、「CS向上→売上/利益のアップ」ではなく、「CS低下→売上機会の損失」というアプローチである。その前段として、顧客は満足/不満足の体験をした後、どのような行動を起こすのか、という点からまずは考えてみたい。

 通常、顧客は企業と関わりを持った後、何らかの感情を抱く。それが事前期待に近いものであれば、特別な印象を持つことなく記憶にも残らない。その後の行動に影響を及ぼすこともほとんどない。

 一方、事前期待と大きく異なった場合はどうだろうか。肯定的/否定的な感情を抱き、記憶に強く残り、何かしらの行動につながる可能性が高い。その行動は主に3つのパターンに分けられるーー、フィードバック・口コミ・再購買だ(図1)。

図1 顧客体験から生まれる主な行動


 接客が良ければ感謝を伝え、悪ければ文句を言いたくなるものだ。これら「顧客のフィードバック」が、最初に表れる行動であろう。

 その次は、「口コミ」だ。強い印象は、感情とともに記憶に残る。感情の度合いが大きければ大きいほど、自分の胸の内だけにしまっておけず誰かに言いたくなるものだ。ソーシャルメディアが普及した今、従来型の口コミだけではなく、ネット上への書き込みも少なくなく、その影響ははかり知れない。

 再購買をするか否かは、顧客の企業に対する最終的な評価といっても過言ではない。評価した当人のみならず、ネガティブな「口コミ」を聞いた“見込み顧客”の購買についても着目したい。今の時代、同じような商品は市場に溢れている。信頼のおける知人が悪く言っている製品をわざわざ選んで買わなくとも、他の選択肢はいくらでもあるのだ。

顧客のお礼/クレームの財務的影響
範囲は限定的で紐付けも至難の業

 顧客応対における、顧客からのフィードバックについて考えてみよう(図2)。まず、肯定的なフィードバックとは、「その場でお礼を言われる」「お礼状が届く」などが代表的な例だ。言うまでもなく、オペレータの元気の源だ。モチベーションが上がり、応対品質向上が期待され、離職率の低下にもつながりそうである。特に、離職率の低下は、新人採用/育成費用などが削減できるため、間接的ではあるが、財務的影響が出る。しかしながら顧客からのフィードバックと離職率の因果関係を証明するのは難しい。退職を決意した電話オペレータが、顧客から褒められたことで、退職を留まるとは考えにくいからである。

図2 顧客からのフィードバックの影響


 一方、顧客からの否定的なフィードバック――クレームの場合はどうだろうか。応対時間が長引くことで、まずオペレータの人件費が増加する。さらに、エスカレーションされて、SVの人件費(クレーム対応時間+事後処理時間+当事者のオペレータへのフォロー時間)も発生する。しかし、これらを試算しても、会社への財務的インパクトはさほど大きくない。

 結局「顧客からのフィードバック」の財務的影響を数値化することは難しいか、影響は限定的だと言わざるを得ない。

 次回は残り2つの行動、「口コミ」と「再購買」について「ジョングッドマンの法則」で有名なジョンA.グッドマン氏の理論をもとに論じてみたい。

(コンピューターテレフォニー2011年9月号掲載)

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