クレーム対応のレシピ 第8回

「知識」「技」だけのクレーム対応に渇!
ホスピタリティの真髄は「思考力」にあり


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
この著者の講座はこちら

 バナナや納豆などが体によいとテレビで紹介されたらコンビニでよく売れるという話を聞いたことがある。確かにそれらは体によい食べ物だろう。しかし、バナナや納豆だけを毎日食べ続けてもそれは体によい食生活だとは言えない。バナナや納豆の持つ成分は“体によい要素”のひとつに過ぎないのだ。「何を食べれば体によいか」という知識だけではなく、「体によいこととは何か」を問う思考力がなければ体によい食生活は実現できない。

 クレーム応対に関しても同様のことがいえる。FAQを見て「何をすればクレームが収まるか」の知識を得る前に、「クレーム応対とは何か」を考えることが先であるべきだ。そして、その考え方の差が応対の差に結びつくのではないかと私は思う。

 もう何年も前の話だが、北陸の温泉に旅行に行ったことがあった。ひと風呂浴び、脱衣場に戻るとロッカーの鍵がどうしても開かない。あられもないスタイルでフロントに行くわけにいかないので、備え付けの電話で仲居さんを呼んだ。周りの人は何事かと怪訝な様子である。駆けつけた仲居さんは、ロッカーに突き刺した鍵を見て、私の耳元で「鍵が反対でした」とささやき、そして大きく、周りの人に聞こえるように「鍵がかたくて申し訳ありません」と言って頭を下げた。“顧客に恥をかかせてはいけない”という配慮がうかがえる実に気持ちのよい応対だった。良質のサービスの提供というより、人としての思いやり=ホスピタリティを感じさせる応対だった。一般的なサービスは知識(マニュアルやルール)の整備でまかなえるかもしれないが、ホスピタリティは“考え方”が身についていることが必要であると痛切に感じたものだ。

 仮に、鍵が逆であることを大声で顧客に伝えたとしても問題は解決し、顧客もクレームを引っ込めるだろう。しかし、それでは顧客に恥をかかせてしまうことになる。応対のゴールは、「顧客に気まずい思いをさせず、快適に旅を楽しんでもらうこと」であるはずだ。かの仲居さんにはそのゴールがわかっていたと思う。  事象の1つひとつを検証して、こちらのミス・不手際か、それとも顧客の勘違いや不当な要求かを明らかにしながら問題解決していくことだけがクレーム応対ではない。もちろん、謝罪方法や言葉遣いに気をつけることだけがクレーム応対でもない。それらは、クレーム応対の“1要素”である。

 顧客が求めるものは心理的満足だ。クレーム応対の本質は、顧客に敬意を持ち自尊心を傷つけず心理的な満足感を満たしたうえで、会社との良好な関係/コミュニケーションを継続させることにある。このゴールを見据えてモノを考えず、声のトーンや話し方ばかりに気をとられることは、「木を見て森を見ず」と言える。バナナを食べればそれだけで健康になると思ってコンビニに行くようなものなのだ。


(コンピューターテレフォニー2011年11月号掲載)

第9回はこちら

この連載の一覧はこちら

この著者の講座はこちら

2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時46分 更新

その他の新着記事

  • スーパーバナー(リンク1)

購読のご案内

月刊コールセンタージャパン

定期購読お申込み バックナンバー購入