クレーム対応のレシピ 第3回

きつい/柔らかい、関西風/関東風――
口調に惑わされない“聴く力”を鍛える


著者:JBMコンサルタント 玉本美砂子
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 TV番組「秘密のケンミンショー」が好きだ。同番組で、大阪は他の都道府県を尻目に堂々たるレギュラーポジションを保持している。番組内で紹介される“大阪人”の特異な生態はいささか誇張され過ぎているとも感じるものの、それをうれしそうに宣伝して回るのもまた大阪人なのだ。

 中でも「大阪のおばちゃん」の絶大なるラテン系パワーは、他県民にとっては異民族に対して抱くような恐怖でもって迎えられるらしい。ヒョウ柄の服、パーマ・短髪・ポイント茶髪、自転車には傘スタンド、喫茶店では「すいませーん。お冷や持ってきて」と大声で叫ぶ。タダのものは何でも鷲づかみ、タイムセールでは騎馬武者と化す。あるコールセンターでは、そんな大阪のおばちゃんからのクレーム電話には、大阪出身のオペレーターが駆けつけるという話もある。

 「あんたかてな、こんなん言われたら嫌やろ。そやけどな、わたし何も嫌がらせ言うてんのんちゃうでぇ。お宅の会社はなぁ、どないなってんねんて聞いてるだけやねん。なんでそんなん謝ったらしまいやみたいな言い方すんのんかなぁ?!ええかげんにしてほしいわ!ほんまにもう―――」

 誰が聞いてもこれは立派なクレームだ。

 同じ内容を、“山の手の奥さん風”に翻訳すればこうなる。

 「このように申し上げるとご気分を害されたかもしれませんが、会社がどのように対応されるのかをうかがっただけですので、謝っていただくというよりは、今後のことをおっしゃってもらえればうれしいのですが―――」

 言っていることは同じだが、前者を即クレームと判断しても、後者をクレームとしない人がいる。顧客の語気が強ければクレーム、柔らかい言い方ならクレームではないと判断してしまうのだ。したがって、対応を誤ってしまう。本来は怒りの電話であるのに顧客の言い方が柔らかいため、謝罪もせず、適切な対応を行わない。

 反対に、顧客の言葉遣いや語気が少々荒っぽいときには、ただの問い合わせや相談であるにもかかわらず、クレームだと勘違いしてうろたえてしまうオペレータもいる。

 クレームの本来の意味は「主張、要求」だ。顧客の会社に対する「改善要求」が和製英語のクレームだ。したがって、クレームかどうかの見極めは、言葉のきつさや柔らかさの問題ではなく、顧客の話す内容の問題であるはずだ。

 オペレータは、語気だけに惑わされず、事実とその背後にある気持ちを聞き取ることが大切だ。正確に事実を「聞く」、語気や言葉の端々からお客様の気持ち、真意を「聴き取る」ことがクレーム対応には不可欠だ。「話術」「話力」の前に「聞術」「聞力」「傾聴力」がまず必要となる。

 こうした力を身に付けるためには、音源を何度も聴いて気づいたことをメモに取るなどの訓練を行い、応対者としての「耳」を鍛えることだ。しっかりと耳を傾ければ、その中身を理解できる「耳」を持つことができる。そうすれば、大阪のおばちゃんだって怖くはないのだ。このことは、筆者――大阪のおばちゃんが言うのだから間違いない。


(コンピューターテレフォニー2011年6月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2016年06月29日 16時44分 更新

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