元ファーストクラスCAの接客術“おもてなし力”の磨き方 第11回

2024年4月号 <元ファーストクラスCAの接客術 “おもてなし力”の磨き方>

江上 いずみ

コラム

第11回

炎上事故に学ぶ「お客様サポート」の大切さ

 新年早々の1月2日に起きたJAL機炎上事故において、“乗客乗員全員無事脱出”することができた3つの要因のうちの2つは、「CAが毎年受けている訓練で培った知識と判断」と「それを他のCAに伝えることにより乗客を上手く誘導することができたCAの連携」であることを前号でお伝えしました。

 今回は、その3つ目となる「搭乗していた乗客の協力体制」についてお話ししたいと思います。

 離着陸時に衝撃を感じたらCAはすぐ立ち上がったりすることなく、自分自身も衝撃防止姿勢を取り、お客様にも「頭を下げて! Heads Down!」と大きな声で呼びかけます。そして機体が完全停止したら「パニックコントロール」を行います。「私たちを信じてください」という信念で「大丈夫、落ち着いて! Stay Calm!」と呼びかけるパニックコントロールは、最も重要なミッションです。

 飛行機から脱出するとなると、誰もが大切な荷物を上の棚から降ろして抱えて飛び出したくなるものですが、今回は「荷物は置いて!」というCAの声掛けをサポートするかのように、お客様からも「荷物を降ろすな!」という声が飛び交っていました。周囲が火に覆われ、機内に煙が充満しているという緊迫した状況にもかかわらず、パニックに陥ることなく、冷静に行動した乗客の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものがあります。海外を含め多くのメディアは“奇跡”だと称賛しましたが、私は“奇跡”ではなく、普段のCAの訓練と意識の“積み重ね”、そしてそれを信じて従った乗客の“サポート”が今回の「379名乗客乗員全員無事脱出」劇につながった、最も大きな要因だったと思っています。

 コールセンターで日々お客様対応をなさる皆さんも、お客様や取引先のサポートあってこそ上手く展開していくお仕事があるかと思います。「私を信じて!」という皆さんの想いを伝えてお客様のお力添えを引き出していくことが、大きな仕事の成就につながるのではないでしょうか。

 これから皆さんがお仕事やプライベートで飛行機に乗るときは、搭乗する飛行機にぜひ“興味”を持っていただきたいと思います。座席前のシートポケットにある「安全のしおり」を見たり、前方スクリーンで流れる「機内安全ビデオ」を見ることはもちろんですが、これらは全席を対象に説明したものですから、それだけではなく、自分が座る席の一番近い脱出口はどこか、もしそこが使えなかったらどこから逃げるのかなどの把握も大切です。CAと向かい合う“非常口座席”に座った人は、緊急脱出の際に、脱出用スライドの下であとから滑ってくる人の手助けをするよう依頼されます。

 赤ちゃんを連れたお父さん、お母さんは、シートベルトをするとき、赤ちゃんを抱っこしてその上から締めようとします。でも、それでは何かあったときに、シートベルトで赤ちゃんのお腹が潰れてしまうことになり、とても危険です。シートベルトは親御さんだけがして、その上から抱っこします。赤ちゃんのシートベルトは「お父さん、お母さんの愛情の腕」なのです。

 こういった飛行機のさまざまな特徴に興味を持って搭乗し、安全で快適な空の旅をお楽しみいただきたいと思っています。

イメージイラスト
PROFILE
江上 いずみ
筑波大学・神田外語大学客員教授。Global Manner Springs代表。慶應義塾大学卒業後、日本航空(JAL)の先任客室乗務員として30年間乗務。機内アナウンスに定評があり、JALの機内アナウンス指導クリニック創設者でもある。1987年、皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に選出され乗務。現在、大学や医療機関、介護施設、官公庁や企業に講演や研修を行う。著書「JALファーストクラスのチーフCAを務めた『おもてなし達人』が教える“心づかい”の極意」(ディスカバー・トゥエンティワン)「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)

2024年03月20日 00時00分 公開

2024年03月20日 00時00分 更新

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