本誌記事 ケーススタディ ウイングアーク1st

ウイングアーク1st

サクセス部門をどう“スケール”させるのか──
3つの施策「業務委託/採用強化/顧客理解」

SaaS系企業が成長する過程で必ずと言っていいほど浮上する「カスタマーサクセスのスケール対応」。電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の実施により、契約数が倍増したウイングアーク1stの電子帳票プラットフォーム。アウトソーシング、幅広い採用で乗り切り、さらに「DataOps」の新設によりカスタマーサクセスで取り扱う情報の最適化に取り組んだ同社に、詳細なプロセスを聞いた。

 ウイングアーク1stは、帳票・文書管理やデータ分析基盤、BIダッシュボードなどを提供している。そのなかで、請求書などあらゆる企業間取引文書の流通・保管が可能な電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent」は、電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の実施により、契約件数が倍増。これに伴い、カスタマーサクセス部門がハイタッチで手厚いサポートを行ってきた、オプション販売の「オンボーディングプログラム(運用開始までの支援)」の業務量が急増。現場の慢性的な業務過多、圧倒的なリソース不足に陥り、同プログラムの販売を一時中止するほどになった。その結果、「製品をつかいこなせない」との理由で解約が発生し、大きな課題となっていた。そこで、リソース不足解消の方法として、「外部企業への業務委託」と「中途採用強化」を同時並行で行った。

契約数倍増のスケールに対応した
アウトソーシング&採用強化

 まず、これまで販売パートナーとして協力関係にあり、販売後のフォローの重要性を理解している企業、複数社に「オンボーディングプロセスのパートナーシップ」の委託を打診。オンボーディング時に必要なナレッジ共有を開始した。具体的には、パートナー企業の受託窓口となるチームリーダーがウイングアーク1stに出向し、座学やOJTでナレッジを習得、パートナー企業に帰って社内教育を施すことでメンバーを拡大した。この出向・教育のタイミングは、自社の中途社員の入社に合わせて行った。採用についてCustomer Success部の小池尚樹部長は、「カスタマーサクセスは業務が多岐にわたるため採用が難しい。営業、技術、サポートのいずれかで長けた面を持つメンバーを採用しました」と説明する。

 また、顧客のステータスや課題を共有できる環境も整備。その1つが、パートナーも参加できるチャット「QAチャンネル」の新設だ。チャット内で顧客の課題を投稿し、随時確認・フォローしたり、問題の解決策をやりとりできる環境を整備した。加えて、ノウハウや事例を共有する「案件共有会」をオンラインで開催し、情報およびナレッジの共有を強化した。これらの取り組みにより、パートナーも含めた全体でのハイタッチの企業件数が約10倍に向上、チャーンレートも約6%も改善した。

小池尚樹部長
Customer Success部 小池尚樹部長
貝沼英郎氏
Customer Success Manager 貝沼英郎氏

カスタマーサクセス用データ
対応の専用Opsを部内に新設!

 オンボーディングの支援がある程度、落ち着いた段階で、契約6カ月〜1年後のある程度使いなれた顧客を対象にアダプション(使いこなしの支援)とエクスパンション(アップセルやクロスセルなど)強化にも着手した。Customer Experience統括部 Customer Success部 Customer Success Managerの貝沼英郎氏は、「最も大きな壁となったのが、当時、“顧客に連絡をしないと利用状況がわからない”という状態だったこと」と振り返る。CSM(現場担当者)がアプローチした段階では、すでに「解約を決めた後」ということも少なくなかった。解約を決断する前にアプローチできなければ、適切なチャーン抑制やアップセル/クロスセルにはつながらない。そこで、顧客の状況を可視化し、適切なタイミングでアプローチできるよう、データ基盤の構築と利用状況の可視化を行った。

 Customer Success部内に「DataOps(データオペレーション)グループ」を新設。従来、存在していた情報システム部門とは別に、カスタマーサクセス活動に必要なデータを整備する専任者をカスタマーサクセス部内に設けた形だ。これにより、カスタマーサクセスに必要なデータを整備・利用可能な状態に変換し、invoiceAgentと基幹システム、CRMのデータ統合を実現した。

 そうして利用できるようになったのが画像の「利用状況可視化ボード」だ。顧客の企業IDから、ユーザーアカウント数やアクティブユーザー率、ストレージの使用量の推移や月次配信数、ファイル数の推移などが一覧で把握できる。そのうえで、「利用状況に合わせて適切なタイミングでアプローチできる仕組み」づくりを行った。具体的には、定量情報として、(1)活用が進んでいない(格納文書が増えていない、ログインしていない)、(2)活用が進んでいる(格納文書数が増えている、ログインしている)に分類。契約更新前にアンケートを実施し、推奨度合い、現在困っていること、今後実現したいことをヒアリングし、定性情報を取得した。これらのデータをCTAのトリガーとして用いて、適切なタイミングでアプローチできるよう、随時最適化を図っている。

図 利用状況に合わせてアプローチできる仕組み
図 利用状況に合わせてアプローチできる仕組み

 これらの施策を運用して1年未満だが、アップセルは昨年同月比で約5倍に拡大したという。「今後はお客様をさらなる成功に導けるよう注力する方針です。弊社製品は幅広い目的で活用できます。導入いただいた製品を業務の1割でしか活用できていなかったら、2割、3割と活用していけるような支援を目指したい」(小池氏)。

(月刊「コールセンタージャパン」2024年3月号 掲載)

2024年02月20日 00時00分 公開

2024年02月20日 00時00分 更新

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