契約しているサービスの利用状況を把握し、顧客自身も気づいていない課題や改善点を見つけ、ビジネスにつなげる。NTTドコモビジネスは、通信・ネットワークなどの利用データを起点に、既存顧客への提案を行うカスタマーサクセス(CS)を展開している。中心となるのは、顧客と密接に対話するハイタッチによる支援。データから立てた仮説を経営課題と照らし合わせ、契約更新だけでなく利用拡大(アップセル/クロスセルなど)につなげる取り組みだ。
同社がCSを独立部門としたのは2022年。ビジネスソリューション本部 事業推進部 カスタマーサクセス部門 担当部長の橘 賢一氏は「それ以前は、マーケティング部門の機能の一部として活動していました」と振り返る。独立化の背景には、新規案件の獲得と既存顧客への対応を営業がまとめて担う、“昔ながらの体制”に関する課題があった。同社に限ったことではないが、営業は新規獲得が重視されるあまり、既存顧客への働きかけが後手に回りやすい。そこで専門部隊が契約の維持・拡大、LTVの最大化を担い、営業との分業を進めるという取り組みが進行した。
ビジネスソリューション本部事業推進部に属するCS部門は約100名で構成。このうち約7割が、大企業を中心とするハイタッチ支援を担当。残る3割は企画・営業推進などでその活動を支えている。さらに、電話やメールによるインサイドセールス業務やバックオフィス業務を担う委託先(コンタクトセンター)とも連携している。
CSの立ち位置は、もちろんトラブルシューティングを担う保守・サポートとは異なる。サービスの利用傾向から課題を捉え、改善やアップグレードを能動的に提案する。言い換えれば、営業の後工程を分業するのではなく、「営業の横に並ぶ」存在として、顧客との関係を深める存在だ。
具体的な担当範囲は、営業とCSが顧客やサービスごとに調整している。商談や活動の情報は、営業支援システム(SFA)を通じて共有し、インサイドセールスの担当者とも連携する体制だ(下図)。

通信インフラを主に扱う同部門では、ソフトウエアの操作方法を教えるような導入支援より、利用が続くなかで生じる課題を見つける活動に重きをおいているようだ。
例えば、「インターネットにつながりにくい」という相談を受け、利用状況を調べると、特定の時間帯に通信量が集中している場合がある。その状況に応じて、帯域の拡張を提案する。一方、継続的にモニタリングしている顧客では、前月などと比べた変化からアプローチの対象を見つけ、直販担当やコンタクトセンターから連絡する。顧客からの相談と、データからの兆候把握の両方を起点としている。
ハイタッチ支援で重視するのが、「QCSR(Quarterly Customer Success Review)」だ。四半期のサービス利用状況を振り返り、そこから考えられる課題を仮説として示す。そのうえで、顧客の経営課題と照らし合わせ、今後どこに働きかけるべきかを議論する。現場の担当者に加え、経営層などにも接点を持ち、サービスの利用拡大を事業上の課題解決に結び付けるといった活動を実践している。「(部門化した)2022年と比較すると、受注ベースで約6倍に達しています」(橘氏)とかなり高い成果も挙げている。
契約更新への働きかけは、期限直前では遅い。「1、2カ月前から準備するのではなく、半年ぐらい前から、次の契約更改に向けてしっかりお客様と対話していく必要があります」(同部門担当課長の川上大典氏)というように、単なる継続手続きではなく、付加価値を提案する機会とするためにも、日頃から利用状況や課題を共有することが土台となる。
さらにインサイドセールスのコンタクトセンターへは、顧客の傾向に応じたアプローチの手順や標準提案書も用意。ハイタッチでの対話と、電話・メールによる働きかけを、データと共通の進め方で支える仕組みだ。
こうした活動を担う人材には、顧客理解とサービス知識の双方が求められる。同部門は独自の「CSマイスター」制度を設けている。「顧客対応に求められるスキルと、幅広い商材の知識を掛け合わせ、どちらも一定以上のレベルが認められるメンバーを認定しています」(橘氏)。営業とCSの間で人材が経験を積む循環にも取り組み、CSを担える人材の育成を図っている。
今後は大企業中心の活動を中堅・中小企業にも広げ、利用データに基づく提案シナリオを充実させる方針だ。一方、保守・サポートの対応履歴とSFAの連携にはまだ課題が残っている。加えて、AIによる応対支援なども検討している。
ユーザーの利用状況の可視化は、提案の出発点にすぎない。変化の背景を顧客との対話で確かめ、経営課題に即した改善策へ具体化する。データの分析と、人による理解・判断をつなぐことが、既存顧客への価値提供と取引拡大を両立するCSの役割といえる。
カスタマーサクセス部門を設けるケースが多いスタートアップのSaaS企業も、自社ソリューションの利用状況データをもとにオンボーディングやアップセルといった活動を重ねているが、NTTドコモビジネスは営業担当者やインサイドセールスを担うコンタクトセンターとの連携、人材育成制度の構築など、よりダイナミックな活動が際立つ。成長を目指すそうした企業にとって良きロールモデルといえそうだ。