「モンスターストライク」をはじめとしたゲームなどのデジタルエンターテインメント事業、コミュニティ、スポーツ事業など、さまざまなビジネスドメインを持つMIXI。CS部門では、主にモバイルゲームに関する顧客対応を中心に、一部の付帯サービス(例:TIPSTAR。競輪、オートレースなどの投票アプリ)のサポートも実施している。
CS本部は、大きくCS部とCX部で構成。CS部の中には、通常の顧客対応を担う運用グループ、不正行為や誹謗中傷通報などを扱う健全化グループ、さらに2025年11月に発足した内製化推進グループがある。一方、CX部は仙台の自社センターが中心の実務部隊だ(図1)。
同社は、全社的にAI活用を推進。グループ横断のAI推進委員会が結成され、各部署の施策がモニタリングされている。
CS部ももちろん、例外ではない。2025年は、運用コスト削減と顧客体験向上を両立する自己解決促進のために、チャットボットの実装、メールの自動配信などを進めた。大きな成果をもたらしたのが、人気ゲームタイトル「モンスターストライク」(以下、モンスト)に関する問い合わせ対応だ。
2013年10月から配信開始しているモンストは、世界累計利用者数6500万人(2025年12月現在)を超えるゲーム業界を代表する、まさにモンスタータイトルだ。その関連問い合わせは月間1万5000〜2万件規模に達する。CS本部CS部 部長の横井速人氏は「問い合わせの多くは『ログインできない』という内容で一見、定型化しやすいと思われがちですが、クエスト、課金、端末環境、OS、通信状況など変数が多く、切り分けが困難」と説明する。また、人気タイトルゆえにアニメや漫画作品とのコラボレーションが多く、「(コラボをきっかけに)久々にやってみようというお客様が増え、その際はログイン関係の問い合わせが跳ね上がります」(横井氏)とマーケティングとの連動性も高い。
言い換えれば、モンスト関連の問い合わせ対応には、大量処理が必要な定型対応と、高い解像度に基づく非定型対応が同時に必要ということだ。
さらにAI活用については、CS本部の組織体制にも課題があった。具体的には、「外注中心の運営モデル」だ。一次対応の多くを外部委託先に依存しているため、AI活用を本格化しようとすると、発注先にしかない複雑な運用フローのノウハウが高い壁になる。同社に限らず、BPO活用企業全体の課題だが「どこで何が判断され、どのように処理されているのか」を自社で十分に把握できなければ、AIに学習・実装させることは難しい。そこで同社は内製化を推進、その実務部隊がCX部となる。
さらに「CS部にCREチームというAI導入・活用を主導するチームを組織化し、アプリケーションは自社開発が中心です」(横井氏)というように、IT開発・運用、現場のオペレーションの全方位的な内製化を推し進めている。
同チームは、外部ツールの導入だけに頼らず、OpenAIなどのLLMを利用しながら、自社の業務に合わせて必要な仕組みを構築。現場からの要望を受けての開発に加え、エンジニア側から「何をやるべきか」を考え、実装まで進めている。
CS部が実施した顧客対応へのAI導入取り組みの概要が図2だ。
同社の問い合わせチャネルはほぼ100%、問い合わせフォーム経由のメール。自己解決促進のための該当FAQのサジェストをモンストの対応で実践、「0次解決システム」と称されている。同一内容の問い合わせが大量に入る緊急時には、問い合わせフォームの入力内容からAIが判断し、「メンテナンス中」「トラブルの回復状況」をその画面内で提示し、問い合わせを発生させない仕組みを構築した。効果は用件によっても異なるが、最大約90%の自己解決に成功したという(図3)。
久々にログインする顧客からは、アカウントの復旧についての問い合わせも多い。当然、本人確認は必須のプロセスとなる。横井氏は「プレイヤーしかわからない設問を複数用意し、その回答と実際のプレイデータを突き合わせ、一致しているかをチェックすることで本人確認を実施。問題なければ復旧も自動的に行われます」と、ここでもAIによる自動化の効果を説明する。
また、CS部の業務はモンスト対応だけではない。近年、新しく開始されたサービスのサポートもミッションとなっており、それらもAI対応を進めている。そのひとつが、TIPSTARにおける問い合わせ自動返信システムだ。テンプレートで返信可能な問い合わせに対して、「AIオペレータが返信している」旨を明記したメールを返信。「問い合わせ全体の20〜30%に対して自動返信している」(横井氏)という。
問い合わせメールの自動返信は、先進各社がチャレンジしているテーマだが、誤案内や不適切表現のリスクをどう回避するかが大きな課題となっている。同社も同様の課題に直面したが、「従来、実践してきた対応履歴を活用する」手法を採用。過去のやり取りを分析・分類し、それをベースに回答文を作成するフローを確立し、リスクを最小限に抑えることに成功した(図4)。
コールセンターやCS業界には長年、「ベストサービスはノーサービス」という格言/セオリーがある。「利用に際して、顧客にとって最小限の手間で済むサービスこそがベスト」という考え方だ。同社のAIを活用した取り組みは、このセオリーを体現したものといえそうだ。
成果はすでに数字に表れ、「定型対応のAI化はほぼやり切った状態に近い」(横井氏)という。委託費削減という経営課題も目標をクリアした。
加えて、品質面の効果も大きい。定型領域では、オペレータ個人のスキル差によるばらつきが減り、応答スピードと品質の均一化が進んだ。AIを介した自動返信やサジェストは、属人的なオペレーションからの脱却に寄与しているといえそうだ。
一方、高付加価値な対応では、担当者ごとの強みや工夫が価値になる局面もある。それをAIや仕組みに落とし込んで全体最適化する挑戦は続くだろう。「人が価値をつくり、AIが再現性をつくる」という循環を回そうとしているといえそうだ。
横井氏は、「AIによる効率化が頭打ちになったとき、CSの価値をどう示すのかは大きな課題」と次のフェーズを見据えている。AI時代のCSに求められるのは単なる自動化ではない。定型業務をAIに移行し、人はより価値の高い顧客体験を提供する。そのために組織、運用、開発、文化をどう設計するか――同社CS部門が示す回答に注目だ。