コンタクトセンターにおける生成AI活用は、「魔法の杖への期待」から「実運用を通じた現実的な課題解決」へのフェーズへと移行しつつある。多くの企業が「ハルシネーション」や「セキュリティ」を導入の障壁として挙げるが、真のボトルネックはテクノロジーそのものではなく、「現場業務を熟知し、AIを使いこなせる人材」の不足にある。
2025年の「コールセンター実態調査」において、生成AI活用の最大の課題は依然として「ハルシネーションのリスク」(86%)と「情報セキュリティ」(63.5%)が多数を占めた。

ハルシネーション対策は、RAG(検索拡張生成)技術により、参照するデータソースを自社ナレッジに限定することで、回答の正確性は飛躍的に向上した。セキュリティについても、多層的なガードレール、プロンプトの工夫や個人情報の自動マスキング、外部LLMへのデータ提供を遮断するプライベート環境の構築により、一定レベルの管理は可能となりつつある。
一方で、「センター現場で扱える人材の不足」(32.6%)という課題は、単なるITの進化では解決できない。非エンジニア層をいかにAI人材に育成するか――真の課題はここにある。
生成AI時代のSVは、これまでの「オペレータのお世話役」から、業務をAI向けに再設計する「AIアーキテクト(設計者)」へと役割を進化させる必要がある。
| 階層 | 役割 | 求められるアクション |
| AIアーキテクト | 戦略・設計 | 会社のMVVに基づき、AIと人の協働モデルを構築する |
| ビルダー | 構築・改善 | プロンプトやワークフローを設計し、AIを現場に実装する |
| プロフェッショナル | 高度利用 | 豊富な業務知識を武器に、AIを相棒(副操縦士)として使いこなす |
| ユーザー | 基本利用 | 既存のAIツールを活用して定型業務の効率化を図る |
顧客の声を最もよく聞き、そのニーズを把握し、かつ商品やサービス、そのデリバリープロセスにおける痛点を最も理解している人材。それがSVであり、彼/彼女たちこそが「AIで何ができるのか/何をやらせるのか」を知悉できる人材でもある。いわば、AI時代における最大の経営資産が、コールセンターのSVといえる。
SVを経営資源へと昇華させるための教育は、座学のみならず「成功体験の積み上げ」が重要となる。例えば次のような取り組みが挙げられる。
(1)集中型の「AI合宿」: SVを対象に、合宿形式でAIの基礎からプロンプト設計、業務フローの再構築までを集中学習させるアプローチ。組織の「AIネイティブ化」を加速させる効果が期待できる。
(2)遊びを取り入れた学習: 生成AIを活用したアイデアバトルなどゲーミフィケーション要素を取り入れて、心理的ハードルを下げ、AIへの親近感を醸成する。
(3)エラーログの資産化: AIの誤回答(エラー)を単なるハルシネーションとせず、なぜ誤ったのかを分析・共有するプロセスを定着させ、AIを「育てる文化」を現場に根付かせる。
すでに、Sansanのように非エンジニアがチームを組み、生成AIを活用してカスタマーエクスペリエンス向上を図る事例も登場している。こうした取り組みは業種業態、企業規模を問わず必要不可欠だ。
非エンジニアが体系的にスキルを磨くための外部リソースも充実しつつある。例えば次のような要素だ。
・HDI-Japan「AISO(AI活用)」トレーニング: カスタマーサポートに特化したAI運用スキルを習得可能。
・Udemyなどの汎用Eラーニング: 福利厚生としてUdemyなどのアカウントを全社員に配布し、業務スキルからAIリテラシーまで自律的に学べる環境を整える企業が増えている。
・資格・コミュニティ: 「AICX協会」や「Generative AI Japan」といった団体に参加し、他社の成功事例やガバナンスのあり方を学ぶことも、現場リーダーの視座を高めるために有効。AICX協会は資格制度を今夏から開始する方針。
生成AIによって創出された「時間と余裕」を、単なるコスト削減(人員削減)に充てるのではなく、「人にしかできない寄り添い」をはじめとしたカスタマーエクスペリエンス向上のために再投資する。これこそが生成AI活用の真のゴールといえる。
現場のSVやオペレータが、自らの仕事を「AIに奪われるもの」から「AIで高めるもの」へと捉え直したとき、コンタクトセンターは企業価値を創出する真の戦略拠点へと変貌を遂げるだろう。マネジメントに今求められているのは、現場スタッフにAIという新しい武器を渡し、共に未来を設計する計画を練ることだ。
すでに消費者は、AI検索をはじめ、日常生活に溶け込むカタチでAIを活用しつつある。「AIをまとった消費者」に、スタッフを素手で対峙させてはいけない。AIを使いこなす現場への進化が求められる。
