タクシーを手配する手段として、スマホアプリはすっかり定着した。しかし、その配車の方法について、電脳交通(徳島県徳島市、近藤洋祐社長)の事業本部CommunicationCenter事業部 Team Leader、中西大輔氏は「都市部と地方では大きく異なる」と説明する。「都市部の配車は、リソース(タクシー)が豊富なので、『近い車を割り当てて効率化を図る』方法が中心。一方、地方では需要と供給のバランスを取る難易度が跳ね上がる」(中西氏)という。
例えば、地域に2台しかいないタクシーに、オーダーが立て続けに5件入るような状況では、「どの順番で回すか」という判断が、住民の生活の利便性とタクシー会社の事業継続を左右する。地方においては、オーダーに対して稼働できる車両はかなり少ないケースも多く、配車の難易度は都市圏とは違う難しさがある。
さらに利用者は、地方にいけばいくほど高齢者が中心となる。鉄道・バスなどの公共交通機関が少なく、かつ免許返納などで自家用車もないケースがかなり多いのが実状だ。実際、電脳交通のコミュニケーションセンター利用者の大半は高齢者だという。スマホを持たない/使えない、位置情報が取れない、説明が難しい——こうした条件が重なると、アプリ前提の設計では交通弱者が救済できず、タクシー会社のビジネスにおいても取りこぼしが発生する。中西氏は、「タクシー会社の売り上げのほぼすべてに配車が絡む。つまり配車室は単なる受付ではなく、地域の移動を成立させる“司令塔”」と説明する。
しかし、かつてはタクシー会社ごとに設置されていた配車室は、人材面、設備面で経営を圧迫。そしてタクシー会社が倒産すると、地域住民の利便性は下がるという負のスパイラルも生まれている。地方交通はすでに、採算性の追求も難しいうえに、ITによる効率化だけでは解消できない課題を抱えた社会インフラといえる。
電脳交通は創業10周年を迎えた。創業の出発点となったのがコールセンター事業だ。背景にあったのは、タクシー業界の構造的課題だった。全国には現在もタクシー会社が約6000社、存在する。都市圏を中心に展開する大手も地方の零細企業も、すべて「無線配車」という運用モデルを2010年代まで運用していた。結果、すべてのタクシー会社が24時間365日稼働する配車室を持たざるを得ない。集約の余地は小さく、コストは高止まりしていた。
この課題を解くため、同社が着手したのがクラウド型の配車システムの構築だ。ほぼ同時にそのシステムを活用した配車業務を徳島のコールセンターで受託するビジネスを立ち上げた。現在はクラウドシステムの導入約600社、BPO受託は約170社に広がっている。
同社のBPOビジネスは、一般的な「席数×時間」モデルとは異なる。ベースになるのは着信単価だ。理由は明快で、「(地方では)売上げが1日につき1台あたり1回しか立たない」ケースもあって、固定費として課金しにくいからだ。従って受託費用は会社ごとに大きく異なり、「月に数万円程度のお客様から数百万円程度までかなり幅広い」(中西氏)という。
体制は、直営拠点が徳島県と岡山県の2拠点で、人数は合わせて約100人。全国数カ所の委託先パートナーも存在している。
受電量は月間平均20万件以上。繁閑差が大きく、ピークは12月と8月。閑散期との差は約1.5倍で、「繁忙期の着信数は30万件に上る」(中西氏)という。
一般的なコールセンターにおいて、この規模で月間10万件超に対応するのは難しい。同社センターのオペレーションの最大の特徴は、「平均応対時間(AHT)が約40秒」である点だ。中西氏は「定型的な挨拶から入る大手BPOベンダーの運用では、おそらく2分程度かかる。タクシーを呼ぶ顧客は、“(オペレータと)2分話したい”のではなく、“早く車を確保したい”。ここがポイント」と説明する。
典型的なオペレータの応対は次のようなものだ。
「いつもの場所でよろしいですか。はい、じゃあ6号車が向かいます。以上です」
この短さは“雑”ではない。むしろ、顧客の要望を反映した結果だ。重視すべきは会話の丁寧さではなく、「いつもの1台」をどこまで理解しているかという点だ。
「この場合の“いつもの”には、家の前か手前の角か、マンションの裏か表か、到着時に電話するか、希望ドライバーは誰か——といった情報まで含まれている。これらを共有情報として蓄積し、誰が出ても一定の対応ができるようにしている」(中西氏)。
同社センターの最大の武器は、マニュアル化が難しい、“地域・顧客・供給状況”の三重の変動を捌き切る「現場力」にあるといえそうだ。
同社にとっては、タクシーアプリで対応できる一般的な受託はターゲットではなく、最後まで残るであろう、“人の差配が必要な領域”に集中した戦略といえる。たとえば、都市圏におけるアプリ経由のオーダーは自動配車が基本だが、前記したよように地方では稼働している車両が限られ、ときには「断る」判断が必要になる。中西氏は、「ここは人が判断、差配しないといけない」と強調する。
さまざまなビジネスにおいて、自動化が進むほどこうした“例外処理”の密度は上がる。中西氏は、「あらゆる業種で、コンタクトセンターはその例外処理を引き受ける場所になっていくのでは」と分析。これはタクシー配車のみならず、すべての顧客対応業務に通じる考え方といえそうだ。
同社のビジネス傾向について、中西氏は「獲得社数は右肩上がりで増えているが、着信(電話配車)は年々減っている」と説明する。全体としては電話は減る。しかしゼロには絶対にならない。最後に残るのは難しい電話——同社におけるスマホ非保有、位置不明、要望が複雑、供給が薄い——濃縮された“難案件”に対応するコンタクトセンター、とくにBPOビジネスは、今後、件数ではなく例外密度で設計する産業になるという見方もできそうだ。
テクノロジーが進むほど、社会は滑らかになるどころか、便利さを享受する層とついていくことが困難な「境界」が目立ち始める。地方交通はその典型であり、電脳交通の取り組みは、その境界線上において「AIが普及しても残る仕事」を、最初からビジネスとして設計した例といえる。