
野口氏は、「2025年、生成AIとAIエージェントは便利なツールの枠を超え、“開発そのものの民主化”と“消費行動の自動化”を一気に現実へ引き寄せた」と指摘する。とりわけ注目しているのが、①AIコーディング性能の爆発的向上(いわゆる“バイブコーディング”)、②テキストから図解・スライドを生成する能力、③ブラウザ/PC操作をAIが代行する“ブラウザ自動運転”の成熟などだ。これらは広告モデルから顧客接点、さらにはコールセンターのKPIまで、企業の前提を静かに壊し始めている。(本特集の総括記事はこちら)
――2025年の生成AI/AIエージェントの動きで、とくに印象に残っているホットトピックは。
野口: 大きく3つあります。第一は、AIコーディング性能が信じられないほど向上したことです。「バイブコーディング」と呼ばれる流れで、AIがコードを書くだけではなく、アプリケーションとして動く状態まで持っていってしまう。口語体で「こんなことやりたい」と投げかけたら、アプリケーションのコードを書いてくれて、それがそのままアップロードされて動く状態になります。この爆発的な性能向上によって、AIエージェントやアプリは「(ベンダーに)提供されるもの」ではなく、各自がカスタムして作ることができるようになりました。AIエージェント開発が民主化されたといえます。
第二は、text-to-diagram/text-to-slideが業務で使える水準に達したことです。このような「しばらく無理だろう」と言われていた領域が、一気に現実的になった年でしたね。
第三は、ブラウザ自動運転です。ブラウザやPCの操作そのものをAIが担う。2025年の終盤、必要な能力水準まで到達した感があります。指定したサイトを巡回して情報を集め、表にまとめるといった“操作の代行”が、もたつかず動くようになってきています。
――消費者行動の変化を踏まえ、企業はAI活用をどのように進めるべきか。
野口: まず、無形サービスを扱う企業ほど影響は大きいと思います。AIをまとった消費者を前提に、サービスを“再構築”する必要性が生じる可能性が濃厚です。第一段階として、マシンカスタマーがサービスを享受しやすいように整える必要があるかもしれません。(マシンカスタマー)前提のサービス設計を根本から見直していくべきでしょう。
現段階では、例えば飲食店予約でAIの自動発信を無効とする店が多いように、現場では「拒絶する」動きもあります。しかし、完全な拒絶は機会損失に直結してしまうのでは。消費者(+AI)は「ここがダメなら次」を高速で選び直します。損失を生まないためには、“AIに対応するAI”が必要です。中長期的には、「マシンカスタマー・フレンドリー」の思想は必要だと強く思います。
そのための投資判断は難しいかもしれませんが、前述したようにAIコーディングの進化で企業の内製化傾向も強まっています。想定以下で済む可能性はあるのでは。実体験として、ITベンダーによる見積もりが数千万円規模だったものが、プロトタイプまでなら3日でできたという例もあるほどです。必要品質を見直せば、内製のAIコーディングで進められる局面が増えています。
――コールセンター/コンタクトセンターにはどのような影響があるか。
野口: 4つほどの変化が考えられます。まず、(顧客の)自己解決率は上がるでしょう。検索が得意でない消費者でも、ブラウザ自動運転で答えに到達できるようになるため、コールセンターが関与せず解決されるボリュームは増えます。本人確認が必要な案件でも、ブラウザチャットやボット経由で、“自動運転して問い合わせたい”というニーズが高まりそうです。
2つ目の重要な観点は、BtoC、BtoBなどのビジネスモデルが「BtoMC(企業→マシン→顧客/消費者)」に寄っていくと思われること。マシンカスタマー対応を有人対応するのは合理的ではなく、KPIも従来の「おもてなし品質」より「完了率」が重視されることになります。応対の価値基準が変わるということです。
3つ目は、現場で「チャネル設計」の議論が再燃するのではないでしょうか。例えば、マシンカスタマーには音声で対応するより、テキスト/構造化データで“読ませる”ほうが解決効率は上がります。AIエージェントが電話でアクセスしてきたときに、音声で対応するのか、テキストに誘導するのかなど、設計する必要があります。
最後が運用思想への影響です。電話対応は採用も厳しいと聞きます。(企業は)勇気をもって、顧客対応をメールや問い合わせフォームといった非同期コミュニケーションにシフトすべきではないでしょうか。リアルタイムでかつ音声で対応するのは「贅沢な手段」と捉え、VIPや緊急対応のみに限定してはどうでしょうか。リアルタイム対応にこだわり、AIによる精度を99%に近づけようとするとコストは跳ね上がる一方です。しかし、非同期チャネルならば人が最終チェックをすることが可能なので、95%で良いと割り切ることもでき、現実的な落としどころが見えてくると思います。
#野口氏インタビューまとめ:
2025年の変化をひと言でまとめるなら、「AIが“作る”と“買う”を同時に自動化し始めた年」ということ。AIコーディングで開発は民主化し、text-to-slideの実用化で知的生産は加速、ブラウザ自動運転で購買行動そのものがAIに巻き取られ始めた。
<アクションアイテム>
•マシンカスタマー前提の受け入れ設計:拒絶か受容かではなく、「どの入口で、どう捌くか」を決める(機会損失を計算に入れる)。
•チャネルコントロールの実装:音声・テキスト・構造化データを使い分け、マシン同士は“最短で完了”できる道へ誘導する。
•コールセンターKPIの再定義:人間向けの体験品質と、マシン向けの完了率を分けて設計する(BtoMCの発想)。
•非同期チャネルへのシフトを前提に運用設計:精度99%を追う領域と、精度95%+人の最終確認で回す領域を分け、投資対効果を守る。
•システム開発の内製化シフト:AIコーディングの進化の恩恵を享受できる体制づくり