
「生成AIをめぐる議論は『使ってみる』から『どう設計し、運用するか』へと重心が移った」という國吉氏。先進企業ではデータ整備とガイドライン準拠が急速に進み、生成AIも“試行”から“業務に組み込む”段階に入りつつある。さらに顧客側もAI検索やコンシェルジュ機能の浸透で購買行動そのものが再設計され始めた。生成AIの実装現場の最前線にいる國吉氏に、2025年の振り返りと消費・購買行動、そしてコールセンター/コンタクトセンターへのインパクトを聞いた。(本特集の総括記事はこちら)
――2025年の生成AI/AIエージェントの動きで、とくに印象に残っているホットトピックは。
國吉 まず一昨年(2024年)は、生成AIをビジネスにどう入れ込んでいくか、またテキストだけではなく画像なども扱うマルチモーダル化を含めた社会実装が「事業現場における導入の最先端」の出来事だったと思います。2025年はさらに進み、主に3つの変化が目立ちました。
まず1つ目は、「データ整備」です。企業が自社にあるデータを整理し、AIで使えるようにする動きが進みました。仕様書、特許情報、研究資料など、業態によってデータの種類は異なりますが、「どこに何があるか」を整え、検索でしっかり見つけられる状態を作るという点は共通でした。知識(ナレッジ)への接点づくりが一歩進んだ印象です。
2つ目は、ガイドラインへの対応です。業界ごとに整備が進み、国内の法律の枠組みもベースラインが整ってきました。こうした土台ができると、企業内外で共通言語が育ち、判断基準のポイントが共有化され、技術活用が進めやすくなるでしょう。
3つ目が、MCPやAIエージェントの整備です。AIエージェントがじわじわと普及し始めています。親和性の高い領域から発展がすすみ、限定的に導入しながら試す会社も多い。(GenAIの)アワード受賞事例などでもAIエージェントをうまく使った取り組みが登場、2025年の象徴的な動きだと思います。裾野が広がってきたのも特徴です。多くの企業が“エージェントっぽい”ところから試しています。差が出るのは適用範囲です。限定的な範囲で試している場合もあれば、事業の優位性をつくるために業務プロセス全体をどう入れ替えるかまで考えて組み込む企業もある。技術そのものというより、設計する「視野(業務)の広さ」に違いが出ています。
――消費者行動の変化を踏まえ、企業はAI活用をどのように進めるべきか。
國吉 まずは事業価値としてのKPIをどこに置くかです。例えば少人数でも回せるような効率性を求めるのか、それとも市場におけるシェアを高めるのか。目的を明確にしないと、AIを活用した成果も曖昧になります。技術の進化速度が早く予測が難しいので、市場におけるユースケースを見ながら、自社で使える“ストック”を増やしていくことも必要です。そして、確実に着手しないといけないのは、業務プロセスをシンプル化することだと思います。企業によっては、担当者だけが知っていて組織として把握できていないプロセスや領域が多く残っているはず。イレギュラーなルールも積み上がります。そうした複雑な状態にAIを入れると、実効性が薄まります。地味ですが、まずは基礎を整えることが重要です。
コールセンターでも指摘されることが多い属人化への対処には、「データ整理」が肝になります。引き継ぎの際、仮にドキュメントがあっても、2世代、3世代と経るうちに内容はおろか、所在すら分からなくなることは多いでしょう。情報が散っていて、必要なときに取りに行けない状態は最も大きな課題。AIで活用するためにも、情報は整理して、データ化して、保管しましょう。AIが参照すべき原則やルール、最新版の規定も整備が必要です。規定が多すぎるとその管理の難度も上がるため、シンプル化を進め、整理と更新も欠かせません。
さらに難所となるのが、パートナープロセスにおけるブラックボックスの存在です。例えばコンタクトセンター領域では、BPOベンダーなどのパートナー企業にしかない知識やシステムが存在することも多いはず。仕様や権利がパートナー側にあり、委託側はデータの所在すら把握できないケースもあります。ここは腹を割って話し、お互いの知識レベルを揃え、意思を持って進めないとAIによる改革は進みません。言い換えれば、AIはその議論を始める“きっかけ”になるのではないでしょうか。
――コールセンター/コンタクトセンターにはどのような影響があるか。
國吉 わかりやすい進化は、音声技術ですね。自動応答の領域は広がっていくでしょう。AIによる会話の滑らかさも向上していますし、試し始める企業が増えると思います。ただし、PoCで終わらせないためには、導入後の効果の解像度向上が必要です。「自動応答で話せるようになった」だけでは不十分で、聞き取った情報をもとに、自社の関連システムに情報入力したり、必要な情報を調べたり、結果をもとに応答を返すなどまでできないと、適用できる領域が限定的となり、事業的なインパクトが出せません。ここでも必要となるのが、データ整備と連携です。
標準化でき、適用範囲が限定的で、パッケージ的なソリューションで完結する領域、例えば飲食店の予約管理のようなものは比較的導入しやすいでしょう。一方で、顧客DBをはじめ、複数の自社システムと連携したいといった要件が増えると、個別調整や開発が必要になり、コストが想定よりも大きくなり得ます。
見た目は同じ自動応答でも、企業ごとに持っているシステムや、センター内でどこまで処理するかによって難易度は大きく変わります。競合の事例がうまくいっているから真似しようとしても、バックヤードのデータやその構造が違い、同じソリューションで成果が出ない――そうしたことは十分に起こり得ると思いますので、自社データがどこまで整って、かつ連携できるのかを検証、進める年になるのではないでしょうか。
2025年の特徴は、生成AIを“導入する競争”から“設計し運用する競争”へ移ったことにある。今後、顧客側はAIによって情報収集の負担が下がり、「知った前提」で意思決定するようになる。購買プロセスはAIコンシェルジュや対話型UIによって再設計され、やがて当たり前が塗り替わる可能性が高い。その変化に企業が追随するには、派手な機能追加よりも、KPIの明確化と、業務プロセスのシンプル化、そして社外も含めたデータ連携の解消が最重要になる。
<アクションアイテム>
•KPIを先に決める
•業務プロセスをシンプル化し、属人化・例外ルールを棚卸しする
•AIが参照すべき情報を整理し、規定・ルールを“最新版”に保つ
•パートナー領域のブラックボックスを開ける(データ所在・仕様理解・知識の共通化)
•コンタクトセンターは音声自動化だけでなく、入力・検索・回答までの統合を前提に設計する