コラム
第144回
自前主義の限界
かつての日本の製造業は、自前主義を貫いて成功していた。自社の技術やノウハウ、人材だけで開発して成功すると得られる利益は大きい。しかし、さまざまな技術の標準化や市場環境が急速に変化する今日では、自社開発では時間とコストがかかることから、“脱”自前主義が進んでいる。他社の技術やノウハウなどを積極的に取り入れるオープンイノベーションの時代なのである。
自社コンタクトセンターの方針策定や要件定義、システム開発についても同様だ。自前主義では時間とコストがかかってしまう。PBXやCRMなどの基本機能を自社開発するケースは非常に少なくなっているが、自社リソースだけで要件定義しようとする企業が多くある。あるユーザー企業でも、次期システムの要件定義を社内リソースだけで進めている。要件定義のための技術検証のために、ITベンダーとPoC(概念実証)を進めているが、社内にセンター構築の経験者や専門家がいないため、まったく前進していない。長期化するPoCに、ITベンダーからは“PoC貧乏”という嘆きも聞かれる。ユーザー企業における内部の人件費も相当なコストになっているはずだ。センターシステムは古いままの状態で、意識する競合他社からも大きな遅れになっている。
もちろん、コンサル会社への丸投げは良くないのだが、コンタクトセンターの動向を把握しつつ、ユーザー企業の強みを踏まえた要件定義を協働して策定していく必要がある。どのような要件が現実的で、どこまでを求めると背伸びになるのかを適切に判断することはとても難しい。それを見誤ると、行き過ぎた要件定義で高コストになってしまい、RFP(提案依頼書)のやり直しやプロジェクトの中断を招くリスクもある。反対に、最新技術の良さを引き出せない、もったいないシステム開発をしてしまうこともある。
少し前の話だが、「うちの会社はコンサルにアレルギーがある。以前に騙されたことがあるから」と打ち明けられたことがある。質の悪いコンサル会社があるのも否定はしないが、「騙された」という言葉からは自分たちの反省や学習を感じない。スキルが不十分なコンサル会社の選び方のミスや委託範囲が適切でなかったなど、自社にも何らかの原因があったのではないか。そうした会社では、悪い形で自前主義が残ってしまい、利用システムが最新化されない傾向がある。これから外部の会社の活用方法を学ぶとなると長い道のりかも知れない。
生成AIが登場してから1年以上が経過した。コンタクトセンター業界でも、業務に組み込むべく、先行して取り組んでいる企業がある。ところが、生成AIへの期待が高すぎたり、AIの観点で自社データの品質が悪いことは、外部のベンダーからは切り出しにくい。PoCを続ければ続けるほど経営からの期待も高まるが、ベンダーの体力が奪われていくことが懸念される。魅力的な生成AIであるが、現実的なスコープに絞って取り組む必要がある。そうこうしているうちに、担当者の人事異動ですべての活動がリセットされるなんてことが起きないことを祈るばかりだ。適切に外部ベンダーを活用することで、競争力のあるセンターがスピーディーに構築されることが望まれる。
2024年03月20日 00時00分 公開
2024年03月20日 00時00分 更新