コールセンターをどこに設けるか――拠点戦略は、とくに大規模センター運営企業にとっては永遠の課題だ。多くの場合、「人手不足/採用難」対策に加え、災害時にも顧客対応を止めないBCP(Business Continuity Plan) に基づいて判断、決定している。「コールセンター白書2025」では、複数の拠点を設ける場合の理由は「災害時のバックアップ拠点として」が全体(137社)の75%を占めた。
ジャパネットグループの顧客対応を担うジャパネットコミュニケーションズが2025年6月に開設した札幌センターも、その典型的なケースだ。佐世保、長崎、福岡、東京(2026年6月現在)に拠点を持つ同社センターは、九州にリソースが集中していた。頻発する台風など災害への備えを考えれば、分散は避けて通れない経営課題だった。そこで白羽の矢が立ったのが札幌市である。
札幌市には、もともと同社が傘下に収めた旅行通販会社、ゆこゆこのセンターが立地していた。同センターの人材を活かし、かつ業容拡張の一翼を担うには合理的な選択だったといえる。
しかし、札幌市は多くのコールセンターが集積する、国内有数の採用激戦区でもある。そこで同社が試みたのは、採用、業務、教育、システムを一体で設計する「ジャパネット流」の拠点づくりだ。
採用については、企業ブランド力をフルに活かしたといえる。全国区の通販ブランドでもある「ジャパネット」の名前を活かし、札幌駅内の広告スペースを大規模に使う「駅ナカジャック」と呼称した大規模プロモーションを実施。通販番組でお馴染みのMC、中島一成氏を起用し、SNSやテレビCMも展開した。単純な募集というより、同地でも地域に根ざす運用を志向、それを表現する「採用ブランディング」の施策といえる。
ジャパネットコミュニケーションズ執行役員の井田祐介氏は、「当初は200名規模の採用を予定していましたが、(2025年)3月に採用を始めて最初の3カ月で一定程度埋まり、途中で募集を止めました」と振り返る。他社コールセンターで働いたことのある経験者も少なくなかったという。
競争の激しい札幌でこの立ち上がりを実現した背景には、賃金水準だけでなく、「働く環境」への投資がある。札幌駅に近い真新しいオフィスビルに入居し、内装も、北海道らしさを活かしつつ「都市型オフィス」に近い雰囲気を意識した。コールセンターとしては珍しい、窓際に設置されたデスクやスタンディングデスクなど、什器にも工夫を凝らしている。
もちろん、大規模センターらしく広々とした休憩スペースを設置。他にもマッサージ椅子スペース、足湯を模したリラクゼーション、札幌らしくロングブーツを収納できるロッカーなど、至れり尽くせりといっても過言ではない。福岡センターで好評の社員食堂は設けられなかったものの、近隣の飲食店のランチチケットを勤務日数に応じて配布するなど、福利厚生はかなり手厚い。
従業員の中心は30〜40代。正社員・契約社員とアルバイト・パートで運営している。契約社員は正社員登用へのステップとしても位置づけられ、年2回の登用機会も用意。採用を「時給」だけで戦うのではなく、キャリア形成と職場環境を組み合わせている点に大きな特徴がある。なお、これは福岡市など他拠点でも同様の制度だ。
札幌センターは、従来から実施しているゆこゆこの宿泊予約、ジャパネットの通販受注、家電などのアフターサービスという3つの業務を担う拠点と位置づけられている。担当できるスキルを増やすほど時給が上がる制度もある。
このマルチスキル設計は、繁閑差の吸収にもつながる。テレビ通販は需要の波が大きく、エアコンのように季節要因で急増する商材も多い。一方、ゆこゆこは秋の温泉需要など別のピークがある。福岡、佐世保、長崎、東京、札幌の各拠点がネットワークでつながり、どこでも受けられる体制にすることで、需要の変動に柔軟に対応できる。
新人教育は段階的に行われた。まず通販受注を覚え、次にゆこゆこ関連業務、さらにアフターサービスへと広げていく。立ち上げ時には、他拠点からベテランスタッフや若手社員を1カ月ほど応援派遣し、ゆこゆこの既存メンバーも含めて総勢20名ほどの研修体制を組んだ。新旧の組織を分けず、「同じセンターを作る意識を持たせる」ための設計ともいえる。
システムも大きく刷新している。ゆこゆこのCRMや受注の仕組みを“ジャパネット仕様”に変更。旅行専用の受注画面を1年がかりで開発し、他拠点で高評価を得ている通販業務と同様、直感的に操作できる画面にこだわった。例えば従来は成約データしか取れなかったものを、不成約データまでログとして取得できるように改変。これにより、「なぜ成約しなかったのか」を分析し、成約率向上につなげる土台を整えた。
またコール予測と人員配置は福岡で一元管理している。希望シフトをもとにワークスケジュールを組み、15分刻みで過不足を見ながら調整する。同社が長年の通販受注で培った運用ノウハウが活かされている。
札幌センターは、2026年1月時点で210人体制まで拡大。なお、ゆこゆこからはほぼ離職がなく、約70人がジャパネットに転籍した。
一方で、課題がないわけではない。ジャパネットとゆこゆこは、「顧客に寄り添い、よいものを提供し、誠意をもって説明する」という根本は共通していた。ただし、「働く時間や重視する指標の違いなど統合後に戸惑う方もいました。また、通販は旅行以上に繁閑差が大きいため、繁忙期のシフトと希望する働き方をどうすり合わせるかなどの課題もありますが、従業員の働きやすい環境を考え丁寧にフォローとサポートを行っています。」(井田氏)という。
年間応答率は、目標である97%以上をキープできている。井田氏は、「今後の品質の持続性を左右するのは管理者層の育成。立ち上げ時に他拠点から来た管理者は元の拠点に戻り、現地で採用した人材をいかに引き上げるかが課題」と説明したうえで、「現地採用で昇進したスタッフがロールモデルとなり、『ああなりたい』と思われる状態をつくれるか。これが、札幌センターの次の成長を決めるポイント」と強調した。
同社札幌センターの事例が示しているのは、新拠点開設の成否は必ずしも時給や立地条件だけでは決まらないということだ。BCPを踏まえた拠点分散、M&Aが絡む場合は業務プロセスの統合、複数業務を担えるスキル設計、データを取得できるシステム、そして全体を見渡す予測・配置機能。これらを一体で設計して初めて、センターは単なる受電拠点ではなく、事業成長を支える基盤になる。
札幌は激戦区である。その中でジャパネットコミュニケーションズは、最新オフィスや福利厚生だけでなく、キャリアパス、スキル連動の処遇、現場出身者の育成という仕組みで差別化を図っている。今後の焦点は、現地で育った管理者がどれだけ早く厚みを増すかにある成功すれば、札幌センターは多拠点戦略における重要なモデルケースとなるはずだ。