基礎編
第2回
店舗接客では、顧客の表情やしぐさ、声のトーンからニーズを読み取ることができる。しかし、Web接客ではテキストからのみだ。対面で、高い接客力を発揮してきたスタッフほど、「顔が見えない壁」に直面し戸惑うことも少なくない。では、チャット上で顧客との関係性をどのように築いたらよいだろうか。今回は、Web担当者に求められる心構えと、テキストコミュニケーションの基本を学ぶ。
Web接客担当者が最初に直面する壁は「お客様の顔が見えない」ことです。
店舗では、お客様が近づいてこられた瞬間から接客が始まります。表情、歩き方、視線の動き、身につけているもの──あらゆる情報から、お客様のニーズや気分を読み取ります。ベテランの販売スタッフは、言葉を交わす前に最適なアプローチを選択します。しかし、チャットではこれらの情報がすべて欠落しています。画面に表示されるのは、テキストだけです。「この商品の在庫はありますか?」という一文からでは、お客様の年齢も、表情も、声のトーンも、何も読み取ることができません。
当社の話ですが、私たちECチームは、店舗経験の豊富なスタッフで構成されています。所属するメンバーは、店舗では常にトップセールスを誇る優秀な美容部員でしたが、そんな彼女たちにも「お客様の反応が見えなくて、不安で仕方がない」という時もありました。
一方で接客経験のないスタッフは「顔が見えない安心感」からか、どんどん対応を進めますが、会話が噛み合わずに大きなトラブルになってしまうケースも起こりがちです。お客様の顔が見えない安心感が、ひとつ間違えると“返信しておけばいいか”という慢心になりかねません。これらが、多くのWeb接客担当者が経験する最初の壁=試練です。
では、どうすればこの壁を乗り越えられるのでしょうか。
答えは、テキストにおいても「コミュニケーションの真理」を追究することです。こう表現すると、難易度が高く感じられるかもしれません。コミュニケーションというと“コミュ力が高い””お話し上手””聞き上手”を連想されるかもしれませんが、もともとは「共有する」という意味合いがあります。では、お客様の思いを“共有する”とはどういうことでしょうか。テキストでの「この商品の在庫はありますか?」という質問の背後には、「今すぐ欲しい」のか「検討中で、在庫があれば前向きに考えたい」のかなど、さまざまな背景が隠れています。その背景を「共有」するために、私がチャット対応で実践しているのは、「一問一答で終わらせない」ことです。在庫確認の質問に対して、「はい、在庫がございます」と答えるだけでは、お客様の背景を共有することができず、店舗での接客とは程遠いコミュニケーションです。
「はい、在庫がございます。お急ぎでしょうか? 本日中の発送も可能ですよ」といったように、質問に答えるだけでなく、次の対話につながる「問いかけ」をセットにすることで、私は、お客様のお問い合わせの背景を「共有」しようとしています。
店舗接客とWeb接客の違いのひとつに、「時間感覚」があります。店舗では、お客様が商品を手に取り、鏡で確認し、考え込む時間を、私たちは自然に待つことができます。その間に、他のお客様の対応をしたり、さりげなく別の提案を考えたりします。チャットでは「すぐに回答しなくちゃ!」と焦ることも多いです。また、追加情報をいただくための質問に、お客様がなかなかお返事をくださらないために焦ってしまうこともあります。大切なことはスピードだけではなくタイミング、そしてお客様と息を合わせること。そのためには、言葉を交わしましょう。
私がWeb接客担当者に伝えている心構えは、以下の3つです。
1.お客様のご質問の背景を「共有」するために「聞きだす回答」を心がけようということ。ただ回答するだけではなく、会話がつながってコミュニケーションになる回答をしようということ。
ただし、これもさじ加減が大切なのは言うまでもありません。なんでもかんでも質問返しは不愉快な思いをさせてしまいます。
2.回答をするにも得るにも焦ってはいけない。
お客様が一番欲しいのは「タイミングよい回答」です。
3.一期一会の精神を持つ。
チャットは店舗以上に「一期一会」です。1つひとつのやり取りに誠意を込めましょう。
「そうは言っても、具体的に何から始めればいいのか」と思われる方も多いでしょう。私からのアドバイスは、「どんどんお買い物をしよう」「優れた対応例を真似ることから始める」ことです。自分が受けた心地よい体験を再現してほしいです。これはマニュアル化では補うことができません。また、自分が他社のチャット接客を受けてみることも有効です。良い体験も悪い体験も、すべてが学びになります。「この対応はうれしかった」「この言い方は冷たく感じた」。こうした実体験が、あなた自身のWeb接客の質を高めます。

Web接客担当者に求められるのは、特別な才能ではありません。お客様を思いやる心と、テキストコミュニケーションの理解、そして実践を通じて磨かれる技術です。
私も今なお、試行錯誤の連続です。失敗することもあります。しかし、お客様から「チャットで相談できて良かったです」「ていねいに教えていただいてありがとうございました」というメッセージをいただくたび、この仕事の意義を実感します。
次回は、「なぜメールでもボットでもなく、有人チャットなのか」について、ツール選択の判断基準をお伝えします。