基調パネルディスカッションでは、UX/CXに関する豊富なコンサルティング実績を持つビービットの代表取締役、遠藤直紀氏と、ブームとなっているリカバリーウェアのパイオニア的存在であるTENTIAL CS部部長の谷合北斗氏が登壇。編集部の矢島竜児の進行でディスカッションした。
遠藤氏は、「生成AIによってカスタマージャーニーが大きく変わりつつある」と指摘したうえで、「AI検索が普及したことで企業サイトではトラフィックが減少し、今後もさらにその傾向は強まります。顧客の行動データは入手しにくくなる結果、コンタクトセンターに入る問い合わせの価値は高まり、コストセンターから『インサイトセンター』へ生まれ変わることに期待したい」と説明した。
谷合氏は、VOC活動の具体的な取り組みとして「従来から課題だったオペレータによる手動でのタグ付けやご意見の取りこぼし、入出力データのフォーマットの統一化などを生成AI活用でクリアしてきました。具体的には、データ整形→カテゴリーごとに設定した専門家AI→チェックする上司AIまでを自動化し、最終的に人がチェックするという方法です」と説明。その成果として、「従来は1件あたり300秒かかっていたVOCの分類が、10.8秒に短縮した。AIが作業を担い、人が“本質的な判断”を担う構造へと進化しつつある」と解説。
クロストークでは、AI活用における「現場主導」の重要性が議論された。遠藤氏は「AIもDXも、“横串部門”が主導して実施する手法でうまくいった事例は少ない。『どうしても解消したい!』という課題を持っている人が主導すべき」と強調。谷合氏も、「(VOCチームは)自分がやりたいことを形にしたいという熱量が高かった」と同意した。
ソリューションセッションでは、本セミナーの協賛でもあるWOWOWコミュニケーションズの営業戦略本部 執行役員、日野智江氏と、同社と協業しビジネス展開しているヘルスビズウォッチの共同代表 / Chief Technical Officer ヘルスコーチの里見将史氏が登壇。「顧客に寄り添うAI、新しいCXとLTVを創る」と題してディスカッションした。
日野氏は、健康食品やサプリメント市場の現状について「利用者数は微減しているものの1人当たりの購入額は微増しており、個別対応の重要性が増している」と分析。「“N=1”の声にどう応えていくか。そこに生成AIを活用した事例として、ヘルスビズウォッチ様の取り組みを紹介いたします」と里見氏につないだ。
里見氏は、ヘルスコーチング(専門家が答えを教えるのではなく、対象者の気づきを引き出すコミュニケーション)と生成AIを組み合わせた「きっかけデザインAI」を紹介。ヘルスコーチングとは、消費者(ユーザー)の行動変容を促すコミュニケーションで、「専門家が答えを教えるのではなく、対象者の気づきを引き出すコミュニケーション」(里見氏)。
きっかけデザインAIは、このヘルスコーチングと生成AIを組み合わせて実現したサービスで、里見氏は「目標の言語化、顧客自身による選択、振り返りという3つのステップで構成されます」と説明。サービス利用を通じて、「マズローの欲求階層における安全欲求から自己実現欲求へのシフトを促す」(里見氏)という。PoCでは、従来の表面的な回答から背景や目的を含んだ解像度の高い情報を抽出できただけでなく、顧客の前向きな意欲を引き出しながらマーケティングデータを収集するという、行動変容とデータ取得の同時実現がもたらされている。
最後の事例セッションは、「AIがオペレータを助ける、手伝う、導く──共創・共助関係の築き方を学ぶ!」と題して、DMM.comのプロセスデザイン本部 カスタマサポート部 部長 牛丸潤一氏、MIXIのCS本部CS部 部長 横井速人氏、WOWOWコミュニケーションズのWOWOW事業部 デジタルCRM課マネージャー 横関彩氏が登壇した。
まず、35におよぶサービスのマルチサポート体制を統括する牛丸氏は「現場の余裕のない状況」を前提としたAI導入の重要性を強調した。「イノベーションを起こすためにAIを利用するというよりも、限界を迎えた現場を支援してオペレーションを維持・改善する存在にするという発想」のもと、AIで業務を圧縮し、判断や価値創出に人的リソースを集中させる「余白の創出」を推進している。さらに、KCS(Knowledge-Centered Service)を採用することで、構造化されたナレッジ管理による人材育成とAI精度向上を図っている。
一方、モンスターストライクなど多様なサービスのサポートを担当する横井氏からは、実務に即した具体的な活用事例が紹介された。「(お客様が)問い合わせする前、問い合わせした後、そして問い合わせ対応するオペレータ支援の3つのポイントでAI活用を検討、実装しました」(横井氏)
現場で活用している生成AIは、ChatGPT Enterprise/Gemini Enterprise/NotebookLM/GoogleAgentspace/Dify/Zendesk AIなど。「全社を挙げてAIの利活用を促進しているので、エンタープライズプランを契約、使いやすい環境ではあります」(横井氏)という。例えば、NotebookLMを活用した研修事例として「サービスの仕様書やこれまで使ってきた研修資料を読み込ませて、音声や動画、研修内容の理解度チェッククイズなどを作成し、従来数日かかっていた研修について70%の時間を削減できました」と紹介。他にもエスカレーション時のナレッジ支援や問い合わせフォームへの自動ナレッジ提示などのAI施策で大きな成果を挙げている。
横関氏は、BPOベンダーとしての強みとして「現場を知る人材による設計実装とさまざまな業種での実践知の蓄積」について、具体例を挙げつつ紹介。「現場の課題を起点に、CX向上、オペレータ支援の2軸で小規模なPoCを実施し、効果検証したうえで実装を進めています」と説明した。具体的には、ボイスボットによる対応自動化やVOC分析、王品質評価などかなり幅広い領域でAI導入が進行中だ。また、人と AIの役割分担として、迷わず手間なく目的達成できる「エフォートレス体験」はAIが得意な領域であり、感情が動く記憶に残る「エモーショナル体験」は人が得意な領域と整理。「この両方を高品質なBPOサービスとして提供していく」とまとめた。
生成AIの普及により、コンタクトセンターは「戦略的なインサイトセンター」への転換が求められている。成功の鍵は、現場の課題を深く理解した人材がAIを積極的に活用し、顧客1人ひとりに寄り添った価値提供を実現することにある。テクノロジーの導入だけでなく、人材育成と業務プロセスの再設計を含めた包括的なアプローチが、今後のコンタクトセンター運営において不可欠となるだろう。