
「ネットで旅行の予約を完結できる便利な時代になりました。それでも、相談したい、決断の背中を押してほしい思いから、カウンターを訪れるお客様はいらっしゃいます。だからこそ、私たちは、いかに“相談相手”になれるかが大切だと思います」
こう語るのは、日本旅行 TiS大阪支店とTiS京橋支店の支店長を兼務する神田路子さんだ。
神田さんは、カウンター業務ではまず“顧客の要望”を見極める。
「提案を求めているのか、旅行の手配まで希望されているのか。それも、価格を重視するのか、おもてなしが優先か。ご要望を読み違えると、おすすめする商品もズレてしまいます」
よくあるのが、「おすすめのところは」といった漠然とした質問だという。このとき、「新規のお客様だからこそ、成約したいと“焦ったおすすめ”を提案するのではなく、お客様の背景を拾い上げることがポイントです」。
スマートフォンの普及から、カウンター業務の難易度は、如実に上がったと神田さんは感じている。
「ネットやクチコミを使い、深く調べて来られます。私たちよりも詳しいこともありますね」
だからこそカウンターのスタッフには、安心と納得感を与える役割が求められる。物価高や世界情勢が影響し、中でも海外旅行は高額商品になった。「高いお金をかけて旅行されるからには、不安なく、納得してお申し込みいただける環境を作らなければ、カウンター業務は生き残れないと思います」
旅の案内では、“もしものとき”も伝えなくてはならない。「楽しみな旅行を前に、不安をあおるようなことはしません」としたうえで、危機管理としての“ひとこと”を添える重要性を語る。
「『体調を崩された際の窓口はこちらです』とご案内しておくだけでも、緊急時の行動に違いがでます。情報を頭の片隅に置いておいていただけるだけで、いざというときに思い出してもらえます」
期待を損なわない範囲で現実も伝える。その塩梅が、腕の見せどころなのだろう。
神田さんには、40名を超えるスタッフをマネジメントする仕事もある。2支店の収支管理から販促、育成、店頭のレセプションまでを担う。「お客様の目的を受付でうかがい、適任のスタッフをアサインする。得意な方面のスタッフが出ていくと、成約にもつながりますし、スタッフも自信を持って接客できます」。
社内チャットや“知恵袋”のような情報共有の場も作り、国や地域ごとの得意分野を“見える化”する。現地研修に行ったスタッフには「共有し生かしてこそ仕事」と伝え、支店全体の知識に還元もしている。
女性が多い職場ゆえの難しさもあるようだ。
女性は、いまだにライフイベントの影響を受けやすいが、「お客様にとっては関係のないことです。しかし、営業時間のあるカウンター業務では、理想と現実のギャップが出やすいのも事実です」。
こうした状況も打破したいと、管理職を引き受けた。「私にもできるなら、みんなもできる。そう思ってもらえたら、管理職のハードルを下げられると思いました」。
2013年に管理職に昇格した当時、支店長は男性が多数を占めた。それが今は、女性が中心になりつつある。神田さんの歩みは、後輩たちの進路のひとつになった。
神田さんはこれから、高額な旅行を希望する“ロイヤル顧客”との長期的な関係づくりと、気軽に旅行会社を使いたい顧客への利便性の提供を目指す。それには、「どれだけお客様の意向をキャッチできるかです。スタッフには、お客様の温度を下げない接客を伝えています」と話す。接客の際、どうしても端末のPCを使う必要がある。「視線が端末に向かうのを極力、抑え、お客様とアイコンタクトを取り“会話の温度”を保つ。温度が冷めれば、お客様はすぐにスマホへ手を伸ばします。押しすぎず、引きすぎず、お客様自身に判断を委ねるのです」。
神田さんは、顧客の背中を押しながら、後輩の背中も押していく。
