
生成AIは「プロンプトを打って答えを返してもらう道具から、生活や業務に溶け込み、先回りして意思決定を支援するAIエージェント/アンビエントAI(環境AI)へと重心を移しつつある」という坂本佳子氏。この変化が購買行動を「検索・比較」から「承認」へと転換させ、企業にはAIに読まれる情報設計(AI Optimization)と、顧客接点であるコンタクトセンターの役割や評価軸の変革が必要と語る。(本特集の総括記事はこちら)
――2025年の生成AI/AIエージェントの動きで、とくに印象に残っているホットトピックは。
坂本:すでに取り組みが進みつつあるAIエージェントとその先にある「アンビエントAI(環境AI)」化です。これまでのように、画面に向かってプロンプトを入れて答えを得るのではないAIの姿――生成AIに特化したアプリケーションのようなインタフェース自体が“消滅”していくことが現実味を帯びてきました。生活環境の中に溶け込み、位置情報、バイタル、会話内容、スケジュールなどをリアルタイムに把握して、こちらが検索や命令をする前に先読みして自律的に動く。常時接続でありながら、存在感を出さない。そうした「オールウェイズ・オン」型の変化が最大のホットトピックではないでしょうか。さらに今後はフィジカルAIも含め、生活環境への影響が増していくはずです。
――それらの変化や進化は、消費・購買行動にどのような影響を与えた、あるいは今後与えるのか。
坂本:領域によっては、ショッピングというプロセス自体が消滅していくと思います。これまでの「出かける/検索する/比較する/レビューを読む/価格を検討する」といった“労働”が、一定のカテゴリでは不要になっていくのではないでしょうか。例えば日用品なら、好みや健康状態、冷蔵庫の在庫、スケジュールなどをAIが把握したうえで、「こうしますが、いいですか?」と提示し、ユーザーは承認するだけになる。価格比較も含めて、その時点で最適な選択肢を担保してもらう形に移っていくでしょう。日常的に利用する商材などはその可能性が高いと思います。消費のアクションはもちろん、主導権の変化ですね。
もちろん、全部がそうなるわけではなく「欠品させない」「早く安く届く」ことに価値が置かれるものほど置き換わりやすいはずです。英国で話題になっているエネルギー・スイッチングのように、AIが電力価格を24時間監視して最安の会社へ切り替え続ける、といった形のサービスも近い発想ですね。また、流通大手の間でも、家庭内の在庫から需要を予測して発送する、というサービスが語られはじめています。こうした仕組みが、より身近な領域になってくるでしょう。一方で、思考や体験を楽しむエンターテイメントやラグジュアリーな商材/サービスは、人が能動的に選びたい領域として残るはずです。
――コールセンター/コンタクトセンターにはどのような影響があるか。
坂本:AIと人間の両立が最も試される現場だと思います。まず、簡単な問い合わせは、顧客側のAIと企業側のAIが直接やり取りする「エージェントtoエージェント」になり、人間が介在する前に解決されるでしょう。前述したように、AIにとって読みやすい情報が整備されるほど、電話は鳴らず、保留音もしない世界に近づきます。一方で、オペレータが不要になるわけではありません。評価軸が変わると思います。AIでスピードが担保されるなら、次に問われるのは品質であり、共感や文脈理解といった領域で人の判断が重要になります。AIでは解決できず、怒りや悲しみを抱えた顧客が“最後”に来る場所のため、オペレータの役割はより感情労働へ純化していくでしょう。結果的に、コールセンターで最重要視されがちな「AHT(平均処理時間)」といった指標は意味を失っていく。いかに迅速に対応できたかではなく、どれだけ顧客の心を救ったか、カスタマーハピネスや共感度が評価対象になっていくと思います。
さらに、コールセンターをはじめとしたカスタマーサービスの質そのものが、AIが重視する「信頼性の源泉」になります。対応品質が高い企業はAIの推奨でも有利になり得るし、逆に質が低いと、AIが「おすすめの上位」に置きにくくなる。コンタクトセンターは、売上げとの関連が見えにくいと言われがちでしたが、AI時代は様相が変わるかもしれません。
#坂本氏インタビューまとめ:
見立てを整理すると、論点は「AIが代替する」ではなく、消費者・AI・企業の役割分担が再設計されることにありそう。AIが“承認だけ”の購買を連れてくる状態になるほど、企業が競う場所は「速さ」から「信頼」と「人間的価値」へ移る。コンタクトセンターは、その2つを同時に鍛えられる、数少ない最前線の拠点になる。
<アクションアイテム>
•一次情報の“AI可読化”:スペック・在庫・条件・信頼指標を、曖昧語ではなくデジタル言語で整備(AI Optimizationの発想)。
•0クリック前提の露出設計:回答文面に採用される情報の整備と、公式情報が参照される状態づくり(クリックは少なくてもCVRは高い)。
•FAQなどナレッジの再設計:構造化されていても「AIが取りにくい」状態を解消し、直接回答に使える粒度へ。
•DX(データ蓄積)を最優先:AI活用の前提条件としてデータ品質・量を確保し、可視化技術も使って改善を高速化。
•コンタクトセンターKPIの刷新:AHT中心から、共感・文脈理解・ハピネスへ。AI×人の役割を前提に設計し直す。