
2025年、生成AIは「コンテンツを作る技術」から「推論し、次の行動につながる土台を整える技術へと重心を移した」と森氏は強調する。年末にはGoogle、OpenAIが相次いで大型アップグレードを実施、AIエージェントをめぐる議論が一気に現実味を帯びた。変化は消費・購買行動に何をもたらし、企業はどこから備えるべきか。コールセンター/コンタクトセンターの設計思想はどう更新されるのか。「AIをまとった消費者」とどう向き合うべきか、森氏に2026年の論点を聞いた。(本特集の総括記事はこちら)
――2025年の生成AI/AIエージェントの動きで、とくに印象に残っているホットトピックは。
森 大きく3点あります。第一に、フロンティアモデルが大きく進化し、生成AIが「単純に生成する」段階から、「考える(推論する)」段階へ移った点。推論ベースに進化したことが、AIエージェントの登場にも直結しています。
第二に企業活用の観点からは、オープンソースLLMやSLM(Small Language Model)の利用が広がった点です。生成AI活用は「クラウドサービスを使う」ことが前提になりがちでしたが、企業の事情によっては難しいケースもありました。オープンソースや小型モデルを内部システムに組み込み、現実的に運用できる場面が増えたことは大きな変化です。
第三に、コンテンツクリエイティブ領域の高度化です。動画、音楽、画像などの生成AIの品質が上がり、「ここまで来たか」と感じる水準になりました。
そして年末、Googleの「Gemini 3」とOpenAIの「GPT-5.2」がそれまでの集大成のようにアップグレードして登場しました。ここからAIエージェントに関する議論も強く加速した印象があります。もうひとつ補足すると、AIエージェント化の陰で、「デジタルヒューマン化」も静かに、着実に進んだと思っています。サイネージの前に人が立って会話するような仕組みが店頭でも使われ始めていますし、当社も著名人のAI化案件に関わりました。ユースケースが広がっており、AIエージェント以上に現場での活用が進んだ側面もあります。
――消費者行動の変化を踏まえ、企業はAI活用をどのように進めるべきか。
森 大きくは「AIに読まれる準備」と「連携の準備」です。まず、AIが情報を参照する局面が増える以上、企業はAIに拾われる/読まれるWebサイトを意識せざるを得ません。出発点としては、従来のSEOの考え方がベースにはなります。AIもクローラーを使うからです。ただし、これまで検索エンジンのランキングに強く影響してきた被リンク構造などは、AIの参照次第で効き方が変わる可能性があります。AIの場合、リンク数よりも「情報として意味が通るか、読みやすいか」が重要になりやすい。企業がやるべきは「人間に分かりやすい情報」を従来まで以上に整えて提示することです。結果としてそれがAIにも読みやすくなるはずです。この文脈で言えば、FAQ(Q&A)は強い形式といえます。構造化されていて、内容が明確で、参照もしやすい。FAQの整備・強化は重要です。
一方で、企業側が注意すべきはKPIの設定です。AI検索が普及すると、生活者が企業サイトを直接閲覧する回数が減り、「閲覧数」を中心に改善判断すると誤る可能性があります。クローラーの来訪はログで把握できます。企業は「人が見た量」だけでなく、AIが参照できる品質や、AI経由での接触を前提に評価軸を持つ必要が出てきます。
次にデータ連携の準備です。難易度が高いという議論は理解できますが、生活者の行動起点はもっと早く動きます。例えばブラウザAIが普及すれば、人間の代わりにWebを操作して、予約まで行う。これは企業間のデータ連携がなくても成立します。
従って企業が問われるのは、「AIが読みやすいWebページになっているか」「AIが叩けるAPIの口が開いているか」という点です。ここは企業の優先課題として前倒しで取り組む価値があります。
そしてもうひとつ、忘れてはいけないのがブランド醸成です。AIが顧客接点に入り込むほど、企業は「便利さ」だけでなく、自社らしさをどう伝えるかが問われます。これはコンタクトセンターのあり方にも関わってきます。
――コールセンター/コンタクトセンターにはどのような影響があるか。
森 まず前提として、コンタクトセンターは単なる「問い合わせ処理の窓口」ではなく、企業のブランドやポリシーを体現する顧客接点であるということ。AIを使うとしても、単に応対を自動化すればよい、という話ではありません。AI活用の設計としては、私は「分業型」と「協働型」の両方が必要だと思っています。分業型はオートメーションとしてスケールさせる領域。協働型は、従業員の判断や創造性を拡張する領域です。コンタクトセンターがAI活用の最前線である以上、この設計を先んじて行う必要があるのではと思います。
重要なのは、切り分けを「AIがやる/人がやる」で考えると誤る可能性が高いということです。これからは顧客側もAIを使う時代で、「AIをまとった消費者」を相手にすることになるのです。具体的には「AI×AI(顧客も企業もAIでやり取りする)」「AI×人(どちらかに人が入り、AIが支援する)」という掛け算の組み合わせになります。
例えば、AIが電話をかけてくるマシンカスタマーの場合は、AIで応対したほうが効率的です。一方、人間が電話をかけてくる場合は、AIに支援されたオペレーターが対応したほうが、より良いサービスを提供できる可能性が高い。つまり、業務設計の主語は「AIか人」ではなく、どの掛け算を選ぶかに移ります。
センター現場の課題としてよく挙がる「オペレーターのスキル依存」についても、AIが支援することで平準化することができます。ただし、そこで終わりではありません。人間ならではの温かみ、違和感に気づく力、微妙なニュアンスの理解など、人間の良さをAIとの組み合わせで生かす設計が重要です。
さらに先を見れば、「カスタマーサクセス」と並んで、「マシンカスタマーサクセス」の発想も必要になりそうです。マシンカスタマーの向こうにいる人間を満足させられたかという観点で、マシンが正しく動けるような情報提供ができているかが問われます。
もうひとつ、コンタクトセンターにAIを入れるうえで見落とされがちなのが「ブランド価値」です。AIが企業のポリシーに沿って動くだけではブランド醸成には不足します。将来的には、AIが企業の良さを広めてくれる、「1000人の営業マン」かのように宣伝してくれるかが重要になります。その鍵になるのが、ブランド設計の世界で語られてきた「ブランドパーソナリティ」です。ブランドを1人の人間に例えるならどんな性格か、どんな口調で何を選ぶか、迷ったときにどう判断するか――こうした枠組みは、AIの話とは関係なく従来から存在します。これが今後、AIエージェント設計にそのまま接続されていく。コンタクトセンターは、その実装の最前線になります。
マシンカスタマーへの対応については、議論が分かれるとは思いますが、現状では社会受容の課題として捉えるべき。AIが電話をかけてきたとき、契約が成立するのかといったルール整備が追いついていません。だから企業は「フレンドリーか否か」を感情論で決めるのではなく、受け入れる範囲/受け入れない範囲のポリシーを作り、社会環境を見ながら調整していく必要があります。
#森氏インタビューまとめ
情報整備・連携・ブランド醸成・運用の同時設計がポイント
2026年に向けて見えてきたのは、AIが「答えを返す存在」から、生活者の“ゼロ距離の相談相手”として購買前段を変える存在へ広がっていく、という流れだ。企業はAIエージェントを「新しいアプリ」と捉えるのではなく、プロトコルとして既存の入口が行動可能になる世界を前提に備える必要がある。AIは派手に“置き換える”というより、静かに“前提”を書き換える。だからこそ企業には、前提変更を前提として扱うための、情報・連携・ブランド・運用の同時設計が求められる。
<アクションアイテム>
•AIに読まれる情報設計:FAQなど構造化情報を整備し、「意味が通る」「読みやすい」状態を徹底する。
•API整備の前倒し:データ整備だけでなく、連携の“口”としてのAPIを優先課題にする。
•KPIの更新:閲覧数中心の評価から、AI参照を前提にした評価軸を検討する。
•コンタクトセンターの再設計:「AI/人」ではなく、AI×AI/AI×人の掛け算で業務を組み直す。
•ブランドパーソナリティの実装:ルール順守に加え、自社らしさをAIが体現し価値を増幅する設計へ。
•マシンカスタマー対応ポリシー:受け入れ条件・拒否条件・運用手順を明文化し、社会受容の進展に合わせて更新する。