難クレーム対策は、不当な要求行為への対応が焦点だった。それが「カスハラ」という言葉の登場により、深刻な労働問題の要素が加わり、就業環境が害されることへの対応に視点が向けられ始めた。経営問題と化したカスハラについて、消費者関連専門家会議(ACAP)で企業を支援する齊木氏に対策などを聞いた。
──厚生労働省がカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを作成して以降、企業側も自治体も対策を進めています。現状をどう捉えていますか。
齊木 私は、食品メーカーで長年、お客様対応の最前線に立ち続けていました。通算すると40年以上、顧客対応に携わっています。「カスハラ」という言葉が取り上げられるようになって以降、社会に大きな変化が生じたと実感しています。これまでの苦情対応は、消費者関連部門の仕事とされ、難しいお客様対応も部門の中で完結することがミッションであったと言えます。
──オペレータに切電の権限を付与するコールセンターもあります。
齊木 企業サイドからの切電には細心の注意が必要です。ここでも組織としての判断や仕組みづくりが重要です。人によって感覚が異なったり、義務感から電話が切りにくかったりする場合も考えられます。同じ内容の繰り返しが続く場合など、私は“30分で対応を打ち切りましょう”と目安時間を伝えています。できれば業界や企業ごとに時間を定め、切電の目安にするのが良いでしょう。
対応を打ち切るとお伝えしましたが、2つの方法があります。1つは対応を「中止」することです。再入電があっても対応はしません。2つ目は対応を「中断」するという方法です。「中断」の場合、一旦は切電するが、再入電の際には対応します。お客様に対しては「本日の対応はここまでとなります。失礼いたします」と伝え切電します。この「中断」の考え方を持つことで対応の幅が広がり、応対者の気持ちに余裕ができることにもつながります。
──対応の「中止」や「中断」を判断する際に気をつける点は。
齊木 対応を「中止」する際には、組織で判断することが前提となりますが、そのうえで大事なポイントが2つあります。「正当な理由」と「努力した姿」です。「正当な理由」とは、第三者から見ても対応を中止するに値する理由があることです。そのためには先ほどお伝えした客観的かつ具体的な要素が必要となります。「努力した姿勢」とはお客様に寄り添い、解決に向けて歩み寄る姿(言葉)をお客様と社会に示すことです。「馬鹿野郎」と言われて対応を「中止」にするのではなく、「馬鹿野郎ですか、そのような乱暴な言葉は、お控えいただけますでしょうか」など、数回、言葉に出してお客様に伝えることが重要です。この「正当な理由」と「努力した姿」を示すことができなければ対応の「中止」の判断はできないと言っても過言ではありません。
──大企業を中心に、カスハラへの対応方針を示す企業も増えています。ポイントを教えてください。
齊木 まずは、発生事例を集めて、カスタマーハラスメント対応方針を作成することです。社内で共有するだけでなく、ホームページや店舗に掲載するなど、対外的にも提示してください。方針には、社長名での署名を入れることで“トップマネジメントを示す”ことにつながります。また、方針に社長名を入れるためには、役員会など一連の承認ルートを通すことになります。そのため経営層がカスタマーハラスメントに関わることになると言えます。
中小企業は取り組みが難しい場合もあるでしょう。すでに方針を示した企業の事例を参考にすることもできますが、限界があります。業界団体が、各々の方針や対策を進めて所属する中小企業を支援していく形になればよいと考えます。東京都が2024年度内に公表を予定している業界団体共通マニュアルを活用する方法もあります。ACAPとしても研修や交流会、ホームページでの情報発信などを通じて可能な限り、支援をしたいと考えています。
(聞き手・荒木世理子)