夜空にまたたく星のなかでも、1年中、最も強い光を放ち、いにしえの時代には旅人の道しるべにもなった星。その「北極星」を冠した経営指標が「ノーススター・メトリック(North Star Metric:NSM)」だ。その名の通り、経営/マネジメント/現場が方向性に迷わないための絶対的指標とされている。国内はまだ運用事例は少ないが、欧米ではサブスクリプション・サービスの提供企業を中心に成長企業が相次いで採用している。カスタマーサクセス/サポート部門との相性も極めて高いと推察されるNSMの運用について、要諦をまとめる。
カスタマーサポート(コールセンター)部門にも、カスタマーサクセス部門にも、「KPI」は必ず存在する。
例えば、カスタマーサクセス部門の主業務である、時間も手間もコストも投じる必要性がある「ハイタッチコミュニケーション」の対象となる顧客の比率と読み解くこともできそうだ。このケースでは、NSMの達成度合いはニアイコールで「カスタマーサクセス部門のリソース(人員数)や投資額」を左右することになる。かなり親和性の高い指標といえるだろう。
さらにNSMの設定後は、各部門が「何をすればNSMを達成できるのか」を意識したKPIに落とし込むプロセスが必要となる。その例を図3(クリックして拡大可能)に示す。ここでは、「オンライン動画配信サービスの例として、広がり、深さ、頻度、効率の4軸でKPIを設定しています」(米田氏)。
図1でコールセンターにおける分解例を示したが、カスタマーサクセス部門でももちろん、さまざまな視点で分解することができそうだ。
NSMは、外資系企業の成功事例は多いが、国内ではほとんど普及していない。その理由について、米田氏は「デジタルデータの活用にあまり長けていなかったことと、(KPIを)これまで取り組んできた結果としての指標として捉えるばかりで、『未来を変えるための指標』という考え方が見られないことの2つが考えられます」と指摘する。さらに米田氏は、「言葉の問題もあります。結果という言葉は、英語圏では“Result(リザルト)”と“Outcome(アウトカム)”のという2種類が存在し、前者は過去の成果である結果、後者は将来的な成果を指すことが多い。アウトカムをうまく表現できる日本語が存在しない影響もあるのではないでしょうか」と推測する。
デジタルデータの活用については、コロナ禍を契機に「DX」が強く意識され、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)の普及など、徐々に活用レベルは向上しつつある。また、カスタマーサクセス部門の設置が多いSaaS企業では、自社の提供ソリューションの活用度合いをデータとして捉えられるメリットを活かした取り組みが進行しており、まさに「アウトカム」が成否を分けるキーワードとして注目されている。ハイタッチ対応の対象であるロイヤルカスタマーの行動を数値化する効果――アウトカムを得られる土壌は育ちつつあるといえそうだ。
NSMは、現場の指標ではなく経営指標であり、基本的にはトップダウンによる導入以外のプロセスはあり得ない。しかし、「経営陣の考え方や志向を現場に落とし込む」ことに苦労している事例は枚挙に暇がない。NSMがその素材のひとつであることは、欧米の成功事例が実証している。
顧客志向が極めて強い、カスタマーサポートやカスタマーサクセスの現場にとっても、“ロイヤルカスタマーの行動を可視化したもの”という解釈は理解しやすいはずだ。導入/運営にチャレンジする価値は大いにあるといえる。