コラム
第140回
出張先で夕食に迷うと、結局、チェーンの定食屋か中華レストランに入ってしまう、わたちゃんです。地元の名店を探す冒険心がないわけじゃないんです。でも、疲れた夜に「確実に、あの味が、あの値段で、あの早さで出てくる」という安心感には抗えません。
この「裏切らない安心感」こそ、ビジネスにおける「一貫性」の力です。イノベーションや差別化が声高に叫ばれる時代ですが、顧客がリピートする最大の理由は、実は「期待通りの体験が毎回得られること」だったりします。マクドナルドが世界100カ国以上で愛される理由は、東京でもニューヨークでもバンコクでも「あのビッグマックの味」が変わらないからです。スターバックスが「サードプレイス」として機能するのも、どの店舗に行っても同じ空間、同じ品質が保たれているからです。
心理学では、人間は「予測可能性」に安心を感じる生き物だとされています。認知心理学の「単純接触効果」によれば、人は繰り返し接するものに対して好意を抱きやすくなります。つまり、一貫したブランド体験を繰り返し提供すること自体が、顧客の好意と信頼を醸成する仕組みなのです。反対に、サービスの品質やトーンがコロコロ変わる企業は、顧客に「次はどうなる?」と不安を与え、信頼構築の機会を自ら壊しています。
ただし、一貫性とは「何も変えない」ことではありません。日本の伝統芸能に「守破離」という概念がありますが、優れた企業は「守るべき軸」と「進化させるべき要素」を明確に分けています。例えば無印良品は「シンプルで質の良い生活」という哲学を30年以上貫きながらも、商品ラインアップや店舗デザインは時代に合わせて常に進化させています。軸がブレないからこそ、変化しても顧客は安心してついてこられるのです。
一方、一貫性の「罠」にも注意が必要。それが「マンネリ化」です。変わらない安心感と、変わらないことへの飽きは紙一重。長寿ブランドほど「一貫性を保ちながら、いかに新鮮さを演出するか」という矛盾に挑んでいます。老舗の和菓子屋が、伝統の餡子の味はそのままに、季節限定のパッケージや現代風のフレーバーを展開するのは、まさにこの「一貫性の中の変化」の実践です。結局、「選ばれ続ける」ために必要なのは、目新しさでの注目ではなく、「この会社なら間違いない」という信頼の積み重ねです。一貫性とは、企業の「約束」を日々果たし続ける地道な営みにほかなりません。
ということで、先日の出張では思い切って地元の居酒屋に飛び込んでみました。結果は大当たり。新鮮な地魚と地酒が最高で、大将との会話も楽しかったのです。で、調子にのって2軒目に行った店が大外れ。ここで得た教訓。「1軒目はちょっと冒険して2軒目は一貫性で安心を求める!」。これを実践すると1軒目で最悪裏切られても、2軒目でリカバーでき、「終わり良ければすべて良し!」なのです。
