コラム
第19回
「ワンパン料理」にハマっている。いや、フライパンひとつで作らざるを得ない事情があるのだ。仮住まいでの暮らしが続いている。ここではコンロの火口が1つしかないから、自宅の広めのキッチンのようにはいかない。工夫をするしかないのである。
この数年、耳にする「ワンパン料理」だが、流行したのは、新型コロナウイルスのパンデミックがきっかけらしい。あまり料理をしなかった人にも、自宅で手軽にできるというので、一気に馴染んだという。
英語では「One-Pan Cooking」である。なんのことはない、そのままだ。ちなみに「Pan」はラテン語の「patina(平たい鍋や皿)」に由来する。ならば、それ1つでというのは別に目新しい料理法ではない。パスタなどを別茹でせずに具材やスープと一緒に調理するのは「リゾッタータ」などのイタリア伝統料理だし、スペイン料理の「パエリア」だって、語源であるバレンシア語の「パエージャ」はフライパンのことだ。
ちなみに「Pan」は「平たい」のほか、「すべて」や「広い」という意味の接頭語。例えば「パンデミック」は、「Pan=広がる」+「Dem=人々」である。「ワンパン料理」が「パンデミック」で流行したという現象には、どこか皮肉がこもっている。
とはいえ、フライパンひとつで作るのは組み立てが大事だ。手順を間違うと、料理がゴチャゴチャになってしまう。それは1回の電話で要点を聞き取るコンタクトセンターの場合も同様である。
お客様の電話を聞き取る際に、まずは、お客様の言葉で一通り話してもらうことだろう。その後に、確認すべき点を質問し、聞き取って補足する。しかるのちに要点をまとめ、お客様にも確認してもらう。しかし、その手順を間違えたらどうなるか。
お客様が話した内容をすぐに反復したら、お客様はすでに要望を聞いてもらったと思うだろう。続けて質問すると、お客様は「自分の言った内容に不満があるのか」と感じるかもしれない。「責任逃れのために聞き返しているのか」と思われることもある。
安易に「そうですね」など、同意と受け取られる相槌を打つのも危険だ。商品の不具合などのお客様は、すでに主張が通ったと思い、「さっき責任を認めたじゃないか」と反発しかねない。共感力も大事だが、微妙な時は「なるほど」などと、聞いたというニュアンスだけを伝えるほうが無難だ。
テクニックとしては、まず、最初は「商品が、動かない」というように、主語と述語のみで事実を聞き取ることである。そうすれば要点や注意点が見えてくる。
同時に「温度を測る」ことが肝要だ。お客様が、「冷静に話している」のか、「気持ちを抑えている」のか、すでに「沸点に達しているのか」を測定して警戒しておく。
カスタマーハラスメント対策は必要だ。だが、同時に「カスハラに発展しかねないタイプ」の場合、いかに未然に防ぐか。また、問題になった場合にも不利にならないように、いかに応対をしておくか。そのための手順も身につけておく必要がある。
あ、いけない。火にかけておいたフライパンが沸点に達したようだ。こちらも、そろそろこのあたりで止めなくては。