座談会 <マネジメント・オブ・ザ・イヤー2025>
AI技術の進歩とVOCの重要性が高まる中、経営貢献のあり方も大きく変化している。本稿では、マネジメント・オブ・ザ・イヤー審査員の浮島氏と受賞者2名による座談会を実施。現代のコールセンター運営における経営貢献のあり方について議論した。
<パネリスト>(順不同)
<モデレータ>
浮島 本日は、マネジメント・オブ・ザ・イヤー受賞者の2名にご参加いただき、経営貢献に向けた取り組みを伺いたいと思います。まず、会社と担当組織について教えてください。
谷合 当社は日本発のコンディショニングブランドとして、「BAKUNE」をはじめとした商品を通じて血行促進や疲労回復などをサポートしています。当社のCS部門の場合、大きく分けて2つの貢献があると考えています。1つは、お客様満足度の高いサポートの提供です。セルフサービスでも有人サービスでも、結果的に満足度が高い状況を作ることが重要です。2つめは、VOC分析によって新しい商材の開発や既存サービスの改善をいかに早く回せるかという点です。これらが経営層に求められているところだと感じています。
浮島 具体的にはどのようなお客様に何を提供されているのですか。
谷合 BtoCのお客様で、当社の商品を購入する前または購入した後のお客様に対してサポートを10名前後の体制で提供しています。購入前であれば商品選びのアドバイス、購入後であれば交換返品を含めたアフターサポートがメインの領域となっています。当部門で販売自体は行っていません。また、お客様対応とは別にAI活用とセルフサービスのチームとVOCチームが存在しています。
浮島 李さんの会社と組織についてはいかがですか。
李 当社は中国系の証券会社で、日本市場に参入して約4年になります。まだ知名度がそれほど高くないため、お客様からの問い合わせには会社紹介から製品紹介、システム紹介、口座開設周りまで、14名で24時間体制の運営をしています。応対チャネルとしてはチャット、電話、メールなどさまざまあり、現在はチャットが4割、電話が3割の比率となっています。
浮島 経営貢献という観点では、どのような取り組みをされていますか。
李 コールセンターに問い合わせて来るお客様は、ある程度、口座を開設する意思があるお客様や、取り引きしたいお客様がメインです。そういったお客様の疑問点、問題点を解決して、口座開設あるいは入金につなげ、最後は会社の収益につなげることが経営貢献だと考えています。
浮島 AIの活用状況はいかがですか。
李 2025年11月に導入し、生成AIなので一般のお客様がChatGPTなどに質問して出てくるような回答が提供できます。7割以上をAIが回答してくれており、24時間対応が可能になりました。2026年6月には電話にも生成AIを入れる予定で、開発は最終段階まで来ています。
谷合 AI活用は幅広く導入しています。有人対応では、メールが来たら先にAIが回答文を作成したり、電話対応中はお客様の会話内容を見てFAQを出すなどの補助機能があります。また、生成AIによるFAQやチャットボットの改善も行っています。現在は、メール受信時の返信や事務作業、電話でのボイスボット対応とその後の事務処理まで、AIに任せる取り組みを進めています。
浮島 課題はありますか。
谷合 課題は24時間人を使わないサポート体制の構築と、VOC情報をCS部門以外でもいつでも見られる状況の実現です。
浮島 VOCの分析はどのようなサイクルで行っていますか。
谷合 週1回、必ずアウトプットしたいと考えており、新商品が出たりする際はデイリーで見たいという状況です。それに対応する体制は作っていますが、CS部門内での作業は整理されたものの、社内の全員がいつでも見られるようにする必要があると感じています。いわば「情報の民主化」です。
李 VOCはその都度オペレータが声を上げ、専門的に管理する部署が本社にあります。全グループの声を集めて、同じ案件に対して何回要望が出たかをカウントし、優先順位を決めて対応しています。ただし、実現率は約2割程度が現状です。カスタマーサービスで使っているシステムにVOCを上げる機能が付いており、どのくらいVOCを上げたかも人事評価の1つのKPIになっています。
浮島 人材育成についてはどのようなお考えをお持ちですか。
李 オペレータのレベルにバラつきがあることが課題です。お客様に対してそのバラつきを感じさせないよう、返信内容の標準化や、オペレータが自分で答えを探せる体制を整えています。金融経験がないオペレータにはとくに苦労しますが、20年以上の証券会社経験者でも、企業ごとのシステム操作や特性が違うため、最初は案内でつまずくことが多いです。
谷合 情報提供やトラブル対応などはすべてAI化されていくと想定しており、オペレータ自身にはファンがつくような接客ができるようになることを求めています。メンバーたちが、自分が指名されるようなオペレータになれる施策を出して、テストで試し、うまくいったものを横展開するということを始めています。CS部門全体では、生成AIをちゃんと使えるかどうかが評価軸に入っており、人がボトルネックにならないような運営を目指しています。
浮島 採用計画はいかがですか。
谷合 現在、とくに追加での採用は考えていません。李さんと同様に、AI化をどんどん進めているため、人を増やさない状況で今後進めていきたいと考えています。労働人口が減っている中で、人に頼らない仕組みをしっかり作っていかないといけないと感じています。
浮島 離職対策の取り組みについてはいかがですか。
李 離職の原因は主にストレス、評価の不当性、家庭事情などです。とくにオペレータのストレス軽減が重要で、主な原因は高齢者対応です。高齢者で何もわからない状態からの電話は1時間、2時間コースになり、オペレータの高ストレスになります。そのため、ストレスになるクレームが出た場合は管理者が対応し、オペレータは直接苦情対応をしない体制を取っています。また、カスハラポリシーに沿って違反したお客様はアプリの利用禁止まで行います。
浮島 コスト管理についてはどのような意識をお持ちですか。
李 当社としては電話の応答率を重視しています。応答率が低ければ人を採用し、コストより応答率を優先します。新興会社として投資の時期なので、まだコスト部署としては見ていません。
谷合 人件費について経営から言われることは基本的にありませんが、個人的には人を増やすことは良いことだと思っていません。良いお客様体験を提供できる人は採り続けるのは難しいため、最小人数で運用できるようにAIに任せつつ、最小限での運営を意識しています。
浮島 経営貢献という観点で、どの分野が自分の部署の強みだと考えますか。
李 やはりVOCです。お客様の声をどれだけ会社に伝えて、改善すべきところを改善してもらい、より使いやすいアプリにして満足度を上げていくことが重要です。Googleマップの投稿、ストアのレビュー、SNSなど、お客様が声を発信するところはすべて見て、それをレビューして、整理整頓して本社に声を上げています。
谷合 悩ましい質問ですが、やはりVOCだと考えています。3名ほどのVOC担当がいて、そのメンバーがしっかりやってくれることで商品開発やサイトの改善に、迅速に対処できています。ただし、良いサポート体験がないとお客様の声を拾うのは難しいため、お客様満足度を高く維持することも重要で、この2つは順位がつけづらいと感じています。
浮島 今後の目標について教えてください。
李 経営貢献として、どれだけ人件費を抑えながらお客様の満足度を上げるかが課題です。人の採用を抑えるためにはAIの力を借りる必要があり、AIの精度を上げることと、お客様の声をどれだけ正確に拾えるかをマッチングさせて、総合的に会社に貢献したいと考えています。AIの力を借りながら人件費を抑え、お客様の声を正確に会社に伝えて、より良いサービス・製品作りにつなげるコールセンターにしたいと思っています。
谷合 人がボトルネックにならないようにすることを強く意識しています。VOCの分析や質の向上、生成AIを使った運営により、会社が伸びていく中でコストセンターと呼ばれない状況を作りたいと考えています。一番わかりやすいのはVOCで物事を変えていくことや、接客で感動体験を得たお客様がSNSに投稿してくれるような状況を作ることです。会社の成長速度に振り落とされないよう、人がボトルネックにならない運営が大事だと感じています。
浮島 最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
谷合 セルフサービスで問題解決できる環境を作られている企業が徐々に増えてきており、そういう企業がもっと増えてほしいと思います。CS業界では問い合わせをさせないための取り組みをしてきましたが、それがFAQやチャットボットで解決しないという認知につながってしまっています。生成AIなどの新しい技術が提供され始めているので、各社がそれを活用することで業界全体の進化につながると考えています。
李 私自身、「CSだけど楽したい」というのがマインドです。苦情が来ても、それを改善につなげ、できる限りお客様の問い合わせを減らして、同じ問い合わせが来ないような努力をすることが重要です。「ベストサービスイズノーサービス」という考えで、問い合わせしなくてもわかるようなアプリやサービス作りが大事だと考えています。毎日新しい問題が出てきますが、それを整理整頓してFAQに反映し、根本的な問題解決まで考えて動くことで、会社に貢献するサイクルを繰り返していきたいと思っています。
浮島 本日のお話から、VOCやAI、スピードといったキーワードが重要であることを改めて感じました。これからのマネジメントにとって、貴重なお話がうかがえました。