コラム
第17回
突然、テレビが見られなくなった。
原因は一時的なものだったが、ニュースが見られないのは不便だし、毎週、楽しんでいる番組が見られないのは残念。そこで、これを機会にネットTVへ切り替えることにし、詳細を問い合わせることにした。
だが、会員画面にログインできない。契約書も、記入しておいたメモも何年も経てすでに色あせ、どれがIDでパスワードだったのか曖昧である。その問い合わせから始まった。ネット上の手順に従って操作したのだが、ID・パスワードを確認するだけのはずが、気がつくと再設定の手順になっていた。まあ、これくらいはいい。
ようやくログインに成功し、契約について聞こうとすると、今度は「よくある質問」に引っかかった。階層式のFAQに何種類かの答えは表示されるが、該当する答えがない。「その他の質問」を何度、周回しても、また同じ一覧に戻る。自動応答のチャットサービスに聞いたが、ここでも同じ一覧が表示されるばかり。途方に暮れた。
こうなれば直接問い合わせるしかないと思い、電話窓口を探した。だが、奥底にあって見つからない。画面のたびに、すでに見慣れたFAQが再表示される。至れり尽くせりのようで、すでに「要らない情報」だ。ようやく電話窓口にたどり着いた。だが、よく見ると、それは「電話窓口」ではなく「電話問い合わせを予約するための窓口」だった。
それでも「やっと問い合わせができる」とボタンを押したが、反応しない。「迷宮」の突破に時間がかかりすぎて、ログイン状態がタイムアウトしていたのだった……。
コンタクトセンター業界では、階層型FAQや生成AIによって、顧客を自己解決に誘導するシステムが提唱され、多くの企業で導入されている。自己解決は、カスタマーハラスメント対策においても有効だとされている。だが本当にそうだろうか。
自己解決への誘導で重要なことは、(1)平易であること、(2)適切なグルーピング、(3)適切な分量、(4)有益性・有効性だ。だが、今回のケースではいささか戸惑いを感じた。顧客を誘導する構造が管理者側、設計者側の視点で構築されており、「どのようなユーザーが何を求めているか」という視点への理解が足りなかったからだと思う。
今後、ますます高齢化が進む。ITに比較的慣れている小欄でも戸惑うFAQである。イライラした高齢者が、ようやく見つけた電話窓口で不満をぶつけたくなる気持ちは理解できる。むしろ、製品離れを招きかねない。コンタクトセンターの効率運用やカスハラ抑制のためのはずが、わざわざ不満を作り出しかねないのだ。しかも、ユーザー側が「迷宮」を突破して、窓口にたどり着けない限り、企業側はその不備に気づけないのである。それを防ぐには、サイトやFAQの管理者、設計者が製品にもっと寄り添う体制が必要だ。
ところで、ようやく窓口から電話がかかってきた。担当オペレータの応対は、的確かつ簡潔で、言いよどみすらない、素晴らしい品質だったことは申し添えておく。
だから、通話には3分もかからなかった。ただし、問い合わせを始めてからは3時間半が過ぎていた。