コンタクトセンター向けのコミュニケーション・プラットフォームは、「つながらない」「停止する」ことが許されないITソリューションという認識が強い。それはクラウド環境が主流となった現在でも同様で、とくに大規模センターほど“信頼性”が最優先される傾向がある。
英国に本社を持つContent Guruが提供する「storm」の最大の訴求点もそこにある。このほどカントリーマネージャーに就任した米田匡克氏は、「英国で、日本における110番や119番といった緊急通報のシステムを担っています。コールが急増する災害時でも安定運用している実績があります」と強調する。
stormは、日本でも2018年から提供されており、すでに楽天グループなどでの導入事例を持つ。Content Guruは、日本国内での展開強化のために生成AIを活用した新機能などの訴求を開始。チャネル開拓を含めて改めて攻勢をかける方針だ。
さらに近年のコンタクトセンター・システムには、堅牢性/信頼性と合わせて、刻々と変化するカスタマーエクスペリエンスやカスタマージャーニーに対応すべく「柔軟性」も同時に求められる。具体的には、コールフローをはじめとしたさまざまな設定の即時切り替え、AIを活用した自動対応プロセスの構築、音声録音および認識、それらをベースとした対応要約機能などの導入が加速しており、とくにAI領域はここ数年、PoC(概念実証)が続いている。
コンタクトセンターは、数あるビジネス領域のなかで、「AIの恩恵を最も受けやすい部署」とされている。定型的な問い合わせ対応、夜間対応、多言語案内、応対後の要約や評価など、自動化できる余地はかなり大きい。主要ベンダー各社もさまざまな利用シーンを踏まえてデモンストレーションを展開しているが、実際に業務へ落とし込もうとすると、デモでは見えなかった壁が立ちはだかる。
米田氏は「プロンプト設計、成果測定の基準作りや改定など、かなり面倒なプロセスを強いられます。PoCが長引く傾向も強く、長引いた結果、『結局、使えない』という結論になりやすい」と指摘する。
さらにテクノロジーの進化が早いため、PoCの最中に新しい機能が追加され、また新しいPoCがはじまる。合わせて、対応する顧客の行動もAI活用で大きく変化しつつある。AI導入はゴールではなく、「半永久的に続く運用設計の始まり」という認識が必要で、ベンダーやSI、あるいは情報システム部門に丸投げという体制ではもはや対応できない。もちろん、ベンダー/SI各社にも従来以上に「伴走」という意識と体制強化が求められ、同社も国内でそのための体制強化に取り組んでいる最中だ。
Content Guruが提供するAIソリューションの代表格は、ボイスボット「brain Machine Agent(bMA)」だ。
bMAは、AIボイスボットとしての基本機能を網羅しており、以下のような特徴を持つ。
顧客対応におけるAI活用で最も懸念されているハルシネーション予防やセキュリティについても、「組織固有のデータ(FAQなど)をPDFファイルでアップロードしてそれをベースにした回答が可能。また、無関係なコンテンツの生成を検知する、誤作動を招くプロンプトインジェクション防止など、ガードレール設定もできる」(米田氏)と万全の構えを見せる。
さらに生成AI導入のハードルを上げている要素のひとつである、「柔軟なフローやプロセスの変更」に対しては、「storm FLOW」を用意。ノーコードで直感的な操作で変更・管理が可能だ。

米田氏は「既存のコールフローのなかにボイスボットを組み込み、まずは顧客対応の一部だけでも自動化する提案を進めたい」と説明するように、この柔軟性を大きな武器として訴求する方針だ。
こうした「限定した用途」のAI化は、今後のコンタクトセンター向けIT市場を左右する大きなキーワードといえる。
日本においては、あらゆるマーケットが成熟化しており、まったくの新規で数百、数千席規模のコンタクトセンターが設営される可能性はかなり低い。どうしても既存センターのリプレースや追加機能を巡る競争に終始することになる。
一方でコンタクトセンターのプラットフォーム市場は、外資各社や国産ベンダーが入り混じり、まさに「しのぎを削る」状況にある。Content Guruは、高い堅牢性を最大の武器に躍進を図るが、基盤システムであるプラットフォームの場合、リプレースが容易ではない。同社は生成AIを武器に拡張を狙うと強調するが、それも各社、方向性は被っていて差別化は難しい。
米田氏も、「一気に全面的にリプレースできるとは考えていません。夜間対応、手続き対応など、部分的にAIエージェントを導入できる部分から支援したい」と今後の方針を説明する。言い換えれば、「開発の柔軟性を武器に、コンタクトリーズンごとにAIエージェントを作り、将来的にはそれらを中央で制御するオーケストレーション型」を志向している。そこに至る過程として、まずは周辺の「できる箇所、やりやすい箇所、効率化の成果が出やすい箇所」からソリューション提供しようという戦略だ。
ボイスボット以外にも、応対要約、応対評価、CRMデータベースと連携したパーソナライズ対応の支援など、さまざまなAI導入実績がすでに欧米ではある。米田氏は「日本のコンタクトセンター市場は確かに成熟していますが、まだ現場業務を自動化できる範囲は大きい。すでに充実している技術陣に加え、営業やマーケティングなどを強化し、お客様企業、パートナーと伴走する体制を整えたい」と今後の方針を説明した(次ページは米田カントリーマネージャーのインタビュー)。
<Interview>
Content Guru 日本カントリーマネージャー 米田匡克氏

――前職などの経歴は。
米田 国産メーカーの技術者としてキャリアをスタートし、外資系各社でカントリーマネージャーを歴任、近年は消費者行動分析ソリューションを扱っていました。インターネットにおけるUIやノーススター・メトリック(NSM)など、カスタマーエクスペリエンス(CX)についての知見に基づく、さまざまなご支援を重ねてきました。
――日本のコールセンター市場をどう捉えていますか。
米田 もともと私の得意領域であるWebマーケティングの結果、生じるコミュニケーションを司るカスタマーエクスペリエンス戦略の中核。しかし、人手不足に端を発する課題が多く、自動化すべき領域が大きいため、まだIT市場の伸び代は大きいと感じています。
――Content Guruは、コロナ前に日本に上陸し、楽天コネクトが主に扱っています。今後のチャネル展開は。
米田 楽天コネクト様とは、パートナーとして従来以上に緊密な関係を築きつつ、新たなチャネル開拓も進める方針です。具体的にはSI、BPOベンダーさまなどと新たな関係を築きたい。日本のIT市場の場合、「誰が提案し、誰が伴走し、誰が運用を支えるのか」という役割分担を明確にしないとなかなかコミットメントできないという点は、前職時代でも痛感していますので、ここを大事にする方針です。
いま、(日本の)Content Guruは約20名体制ですが、技術陣が多くを占めています。それだけにお客様のニーズに応じた開発や機能強化が可能な点は大きなアドバンテージですが、そのニーズを具体的に聞き取る営業や拡販に活かすマーケティングも強化したいと考えています。
――ほぼすべてのITベンダーが同じように生成AIの性能をアピールしています。Content Guruの差別化ポイントを端的に説明してください。
米田 AI導入は、「簡単に始められること」がポイント。そのうえで、止めてはいけない業務に耐えられること。そして導入後に現場が迷子にならないように、PoCから本番運用まで伴走できることがポイント。それを実践できる実力を訴求していきたいですね。