トピックス
──トランスコスモス
トランスコスモスは、2016年より「消費者と企業のコミュニケーション実態調査」を実施、2025年で10周年を迎えた。コロナ禍やAIの進化など市場環境が大きく変化するなか、コミュニケーションチャネルの利用実態やCX(カスタマーエクスペリエンス)に関する動向を調査。本稿では、10年間の利用チャネルの変遷や生成AI普及にともなうCXの変化について紹介する。
トランスコスモスは、消費者と企業の間におけるコミュニケーションの実態把握を目的に、2016年よりインターネットモニターを使った「消費者と企業のコミュニケーション実態調査」(通称:コミュ調)を実施。2025年で10回目を迎えた。そこで今回は、全10回の調査結果を総括するとともに、生成AIの普及・進化に伴う影響に焦点をあてて考察している。
調査対象は、全国の満15〜79歳の男女のうち、過去にWebや電話を通じた商品の購入や問い合わせなど、企業とのコミュニケーション経験を持つ消費者。調査時期は、2025年7月31日〜8月5日で、4000件の有効回答を得た。
図1は、コミュニケーションチャネル別の利用経験率だ。この10年間でチャネルのDX化が進み、公式スマホサイトやアプリの利用経験率が増加したが、一方で従来チャネル(電話、公式PC・スマホサイト、店舗)も6〜7割を維持している。また、チャットやメッセージアプリなどのスマホを使ったテキストコミュニケーションや、近年は音声自動応答も増加しており、多様なチャネルを利用する「複線化」が進行している。

とくに、コロナ禍を契機にコミュニケーションの頻度や1人が併用するチャネル数が拡大。以前は4〜5チャネルだったものが、コロナ禍以降は6チャネル以上に増加している。巣ごもり生活など外出控えに伴うデジタルチャネルの利用経験の拡大が、コミュニケーションの全体量や接点の増加を招いたと考えられる。
なかでもチャット(有人・ボット双方)の利用意向は高く、全回答者のうち58%を占める。利用理由については、「待たされずに利用できる(待ち時間が短い・営業時間外も可)」が82%と最も多く、「人と直接会話したくないから」(31%)、「スムーズにアクセスできるから」(29%)、「文章・対話形式で相談できるから」(25%)と続く。時間や場所を選ばず、待たずに利用したい消費者が、チャットサポートを望むようだ。なお、チャットサポートで最も改善してほしい点は「チャットボットで解決できないとき、有人チャットにスムーズにつないでほしい」で、32%の人が要望している。
現代の消費者は、自分で調べることができる情報源の利用意向が強い傾向が見られる。「今後3年以内に利用が増加すると思う情報収集手段」を聞いたところ、「Web検索」(40%)、「比較サイトのおすすめやレビュー」(36%)、「SNS上のクチコミや評判」(36%)が上位を占めた。一方、「テレビ・ラジオ」(22%)、「雑誌・書籍・新聞」(19%)などのオールドメディアは2割前後にとどまった。マス媒体で認知度を高めることは今後も必要だが、それだけでは不十分な時代となっている。
CXを語るためには、個々のチャネルを「点」ではなく「線」で見る、すなわちカスタマージャーニーで顧客体験の流れを捉える必要がある。図2は「優良顧客育成地図2025」だ。カスタマージャーニー全体に占めるデジタルチャネルの影響力は大きく、とくにWeb検索やSNSなどでのクチコミの重要性が高いことがわかる。消費者が企業に「顧客の声」を直接伝える割合は28%にとどまる一方で、SNSなどで間接的に伝える割合は48%を占め、顧客の新規獲得にも影響を及ぼす。このことから、現代の消費者は自分で検索して情報を収集する一方で、その過程で見聞きした他人の評価・評判を重視する特徴があることがわかる。

消費者が情報収集や問題解決を図るために企業とコミュニケーションを取るとき、どのようなプロセスをたどるのか。図3は、消費者の情報収集・問題解決の基本プロセスをまとめたものだ。

消費者の97%は、情報収集や問題解決のためにまずはWeb検索を行い、86%は公式サイトのコンテンツやFAQを活用して自己解決を試みる。自己解決できない場合、86%は不満を募らせつつコールセンターや有人チャットに移行する。この際、即座に有人連携されないと14%は問題解決を諦めてしまう。
このことから企業は、公式サイトのコンテンツやFAQ、チャットサポートなどを整備し、消費者の自己解決を促進することが求められる。また、仮に自己解決に失敗しても、親切・丁寧な有人サポートで問題解決できれば、購入意向(ブランド選択率)や顧客ロイヤルティ(継続意向率)の悪化をリカバリーできる。ただし、最終的な問題解決に失敗すると大きな機会損失を招くことになる(図4)。

このため企業は、自己解決であれ有人対応であれ、消費者を確実に問題解決まで導くことが、顧客ロイヤルティを高めるために最も重要な取り組みとなる。AIなどを活用してすべてを自己解決させようとするのも、反対にすべてを有人対応で解決しようとするのも、両極端であり本来の目的を見失っているといえる。消費者を素早く確実に問題解決に導くことを目的に据えて、どのようなコミュニケーション手段を組み合わせるのが最適かを考えるべきである。
2022年末のChatGPTの台頭以降、生成AIを使ったさまざまなサービスが登場。今回の調査でも「生成AIを活用したサービスを利用したことがある」という回答は67%に達し、カスタマーサポートに限定しても「利用したことがある」は56%と高い利用率を示している。
このことは、生成AIが情報の収集・要約の主役となる可能性を秘めている。従来のWebキーワード検索を起点とした情報収集や問題解決のスタイルから、AI検索を起点としたスタイルへとシフトし、カスタマーコミュニケーションが「AIファースト」へと移行する。
具体的には、従来は「検索キーワードを考えてWeb検索」→「公式サイトや外部サイトを閲覧して自分で情報を取捨選択」→解決できない場合は「有人窓口を調べて、イチから状況説明をやり直し」というプロセスが一般的だった。これが、AI検索起点になると「自然文で質問してゼロクリックで情報を入手」→「AIが情報の整理・要約を代行、手続きなども自動化可能」→解決できない場合は「有人窓口に即座に誘導、情報連携・引き継ぎもできスムーズに問題解決」という流れを実現できる。
AIファースト時代のカスタマーコミュニケーションは、次の3つのポイントが重要になる。
①Webサイトの役割を見直す
AI検索の普及によりWebサイトの役割が変化。企業はより独自性の高い情報の発信が求められる。
米国では約6割がゼロクリックで検索が完結するようになっており、GoogleのAI Overviewが表示されると、その先のクリック率が約70%低下するという調査結果がある。このため、AI時代のWebサイトは、AI検索に対応したSEO対策を行うことに加え、「クリックしてでも見たい」と思わせるような独自の一次情報を発信することが重要になる。また、サイト内ではAIが購入相談や手続きを代行し、必要に応じて有人サポートに即時連携するなど、 AIだけでは提供できない価値を提供することで、Webサイトの訪問価値や利用体験を高めることが求められる。
②AIと人のハイブリッドサポート
生成AIには「ハルシネーション」のリスクがあり、AIが誤回答した場合、25%の人が問題解決を諦めて離反する。このため有人窓口へ即座に切り替え、確実に問題解決に導く必要がある。実際、消費者の約7割は、自動応答だけで完結するのではなく必要に応じて有人窓口に誘導してくれるハイブリッドサポートを望んでいる(図5)。

③「人ならではの体験」を提供
多くの消費者は、複雑な問題に直面した場合、とにかく話を聞いてもらいたいと思っている。また、謝罪・感謝などの感情領域の対応は、AIではなく人間に行ってほしいと望んでいる。こうした複雑・重要な問題や共感重視の有人対応が必要な場面では、人ならではのコミュニケーション体験を提供する必要がある(図6)。

以上のことから、AIファーストでのコミュニケーションデザインは大切だが、すべてをAI任せにしてはいけないといえる。AI検索対応や情報発信の独自性を高め、利便性と自己解決率を向上すると同時に、人が提供すべき体験を見極めて、共感を重視した有人サポートを提供する。これによりCXを最適化することが、これからのAIと人による新しいカスタマーコミュニケーションの在り方といえる。