コロナ禍で一気に進んだリモートワーク。しかし、最近では出社回帰の動きが加速している。実際、日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが2020年春から約半年おきに実施している「働き方改革に関する動向・意識調査」の2025年4月度の最新調査によると、テレワーク利用頻度について、「週3日以上」実施する割合は前回調査(2024年10月実施)の33.9%より2.1ポイント、減っている。コールセンターではもっと顕著で、一部の専門的な業務を除けばフルリモート型はほぼ見られず、「BCP対策として仕組みと制度を残す程度」という企業が圧倒的に多い。今年は記録的な猛暑が続く中、熱中症対策として改めてリモートワークを推奨する動きもあるが、実施はかなり限定的なようだ。
リモートワークは、働き方の柔軟性をもたらすことは間違いない。結果、ほとんどのコールセンターが苦しんでいる採用難対策として、極めて大きな効果が期待できる。しかし、上司と部下の関係にも新たな課題が生じるのも事実だ。リクルートマネジメントソリューションズの組織行動研究所で主任研究員を務める武藤 久美子氏は、「従来の職場で自然と行われてきた声かけや雑談、相談といった、いわば”偶然やついでの機会”を使ったマネジメント“機能しづらくなる」と指摘。マネジメント層は部下への関わり方そのものについて見直しを迫られることになる。
出社回帰の傾向は強いといえども、災害が多く、かつ労働人口が減少する一方の日本において、リモートワークは企業のパフォーマンスを維持するために大きな武器となる制度のはずだ。そこで武藤氏に、改めてリモートワークに必要なマネジメント手法「リモートマネジメント」について、企業が取り組むポイントを聞き、コールセンターでの応用を考察する。
コールセンターに限らず、従業員の状況把握の難度が高い、生産性の低下やばらつきが懸念されるという理由でリモートワーク導入を敬遠する企業は多い。言い換えれば、懸念点は「マネジメントの負荷が重すぎる」ことに集約される。
リモート環境であってもマネージャーの役割自体は変わらない。しかし、メンバーを取り巻く環境が変わるということは、手法は変わらざるを得ない。わかりやすい課題例をあげると、新人や異動者などへの教育が直接できなくなる、コミュニケーションがマネージャーと各メンバーで縦割りの構造になり、接点のないメンバー同士の関係性が希薄になる、社員の帰属意識が薄れるといったケースが考えられる。
しかし、言い換えればこれはマネジメントの方法論を見直す機会になりうるということだ。武藤氏は、「従来型の偶然やついでの機会を活用するマネジメントは再現性がなく、個のマネジメントスキルに依存しやすい」と指摘したうえで、「リモートワーク下ではメンバーの自律性を高めると同時に組織とのつながりを維持する新たな工夫が求められています」と強調する。
武藤氏はリモートマネジメントのポイントについて、以下の「3つの『こ』」を挙げる(図1)。
①「個」としてメンバーが立つ環境づくり:
目標設定を明確にし、自律的に業務を進められる仕組みを整える。成果だけでなく、プロセスを重視し、適切なフィードバックを行う。メンバーのスキル向上を支援し、自己成長の機会を提供するなど
②心の距離を縮めるコミュニケーション:
定期的な1on1ミーティングを実施し、業務だけでなく心理的なサポートも行う。オンラインでの雑談や非公式なコミュニケーションの機会を増やし、孤立を防ぐ。メンバー同士の横のつながりを促進し、情報共有の場を意図的に設ける
③「ここがいい」と思える組織文化の醸成:
柔軟な働き方を支援し、ライフスタイルに合わせた働き方を選択できるようにする。企業のビジョンや価値観を明確にし、メンバーが共感できる環境をつくる。メンバーの貢献を適切に評価し、モチベーションを維持する
從來の「なりゆきのマネジメント」をリモート環境で継続すると、さまざまな弊害が起きる可能性が高い。それを示したのが図2だ。
この状況下では、冒頭で記したように新人や若手メンバーが成長しない、必要以上に苦労する、孤独感に苛む、一体感が醸成されない、優秀なメンバーの思いがけない離職、新しいチャレンジができない、そしてマネージャーの負荷のみが増大し疲弊するーーなどの問題が浮上しやすい。
そこで、武藤氏は図3にあるような取り組みを推奨する。
その上で、武藤氏は「まずは“個として立つ”と“心の距離が近い”の2つの取組みを進め、一定レベルの成果が見られたら応用編として“ここがいい”について検討すべき」と説明する。「リモートワークで成果を出せるようになった社員、自ら仕掛けるなどの自律性の高い仕事をできる人は、“会社や上司は自分のために何をしてくれているのだろう?”という疑問を抱えやすくなります。結果、退職につながりやすい。上司や会社のおかげで成果を挙げられていると考えられる環境つくりが“ここがいい”の取り組みのポイント」と強調した。
コールセンターに限らず、多くの日本企業のリモートワークは、コロナ禍において「半ば強制的に開始させられた」ものだ。ほぼ準備なしでスタート――つまり最低限のインフラやルールを用意しただけの状態で現在もリモートを続けようとしている傾向が否めない。コールセンターの場合はとくに、労働集約かつナレッジの参照や顧客情報の取り扱いといった情報セキュリティ問題、そしてストレスフルな業務で孤独感が大敵という事情もあって、その程度の体制では耐えられず、出社回帰傾向が他業務よりも強い可能性が高い。
武藤氏は、「ナレッジなどの情報セキュリティについては、それはIT投資やDX化の要素が大きいし、すでにある程度は解消できているはず。とくにコールセンターの場合は、ナレッジのデジタル化は他部署より先行しているのでは」と指摘したうえで、「議論すべき点は2つ。技術的に難しいのか、心理的に難しいのかを分けること。そしてもう1点は、リモートできないという会社にできていないと感じる“業務の因数分解”を進めることです」と強調する。
コロナ禍での在宅センター構築の際、多くの識者が指摘していたのが「リモートでできる業務/コンタクトリーズンと、できないものを明確に分けて、それぞれのコンタクトが的確にルーティング(分配)されるように設計・運用する」というものだった。これらに加え、武藤氏は「例えば、コールセンターの多くは、オペレータはデュアルモニタでこっちは顧客情報、こっちはナレッジという形で業務していますが、これをどのくらい小さなデバイスでできるか、という実験を重ねた企業もありました」という。こうした細い業務の内容分析が成否を分けるポイントといえる。
採用事情に詳しい専門家のほとんどは、「リモート可能か否かが応募数に与える影響は極めて大きい」と強調する。とはいえ、100%リモートセンターは現実的な選択ではない。最近の主流となっている「ハイブリッド型」を追求すべきだ。BCPに備えるという意味で多くのセンター運営企業はリモートワークができる体制は残しているが、準備もルールも未成熟なままでは、「急激」「一斉」「大規模」に進めると不備が生じ、顧客に迷惑をかけてロイヤルティを下げる品質やパフォーマンス低下も懸念される。日常的にリモートワークをローテーション化するなどの体制作りが必要で、そのためにも「3つの『こ』」をはじめとしたマネジメントの転換が必要といえる。