実践編
第31回
シニア世代のスマートフォンの利用が増えている。スマートフォンを所有したい理由には、「アプリを使用したい」が上位にランクインしている。それだけに、この世代にとって、アプリの占める存在感が大きくなっているといえる。そこで今回は、シニアが利用する身近なアプリと、これらに求められるユーザビリティについて、シニアスタッフの見解をもとに考察する。
シニアのスマートフォン利用者は、年々増加傾向にある。
「モバイル社会白書 2023年版」(NTTドコモ モバイル社会研究所)によると、60代のスマートフォン所有率は90%以上、次いで70代の所有率も80%弱と、シニア世代にもスマートフォンが定着していることが分かる。この世代にとってスマートフォンは、なくてはならない存在となってきている。
スマートフォンを所有した理由の上位には、「家族のすすめ」「周囲が持った」がある。さらに、「使いたい機能・アプリ」が、スマートフォンの所有を後押しする大きな動機になっている。これは、アプリのインストールサービスが、携帯ショップや販売店で人気なことからも見て取れる。
シニアにとって、アプリをいかにうまく使いこなせるかが、“シニアのスマートフォンライフ”の充実度を変えるとも捉えられるだろう。そこで今回は、「シニアとアプリ」の現状と課題を、さまざまな面から探っていく。
スマートフォンを利用する際は、「アプリを利用する」「ブラウザを利用する」の大きく2パターンに分類できる。そこで、アプリの利用について、シニアスタッフの視点でのメリット・デメリットを整理した。
<メリット>
・操作が簡単:
多くのアプリは、直感的な操作ができるように設計されている。
ボタンやアイコンが大きく、文字も読みやすいので、視力が弱い人でも使いやすい。
・機能が限定的:
シニア世代向けというアプリの特性上、特定の機能に特化しているため、必要な機能だけを簡単に利用することが可能。
・起動が速い:
ブラウザに比べて起動が速く、すぐに利用できる。
・プッシュ通知:
アプリの強みであるプッシュ通知により、最新情報やお知らせを受け取ることができる。
<デメリット>
・インストールやアップデートが必要:
アプリの利用にはインストールが必要なうえ、定期的なアップデートが発生する。
しかし、デジタルデバイドが多いとされるシニア世代には、インストールやアップデートといった対応はわずらわしく感じる。そのため、放置したり、最適な管理を行わない場合は、不具合やセキュリティ課題などが発生しやすい。
・ストレージ容量の圧迫:
アプリをインストールすると、スマートフォンのストレージ容量を消費し、他のアプリが使えないなどの問題が発生する。
・サービスのすべてを利用できるわけではない:
ブラウザの利用であれば、すべてのサービスを利用できるケースが多い。アプリの場合は、リンクにて特定サービスのサイトへ飛ぶこともある。
以上、メリット・デメリットを整理した。インストールのハードルはあるものの、ユーザビリティの観点や操作性・機動性から、アプリの利用がシニア世代にとって適切だろう。
さらにアプリでは、ログインの際に文字入力をしなくてもいいことなどが強みとして挙げられる。スマートフォンでの文字入力に消極的なシニアにとって、指紋認証や顔認証が活用できることは、非常に便利なうえ、セキュリティ面でも安心といえる。
シニアがよく利用しているアプリを、シニア調査員の意見をもとに整理した。
●コミュニケーション系
SNS(LINE、X、Facebook、家族アルバムみてね など)
●情報収集系
天気予報、ニュース、乗換案内、飲食店アプリ、ナビ・地図
●エンターテインメント
ゲーム、動画視聴(YouTubeなど)、音楽、電子書籍
●生産性系
カレンダー、メモ、タスク管理
●ライフスタイル系
宅配・食材・弁当、健康管理、お薬手帳、タクシー配車、ネットショップ全般
●行政系
自治体、防災、マイナポータル
●金融・決済系
スマホ決済(QRコード決済、非接触IC決済など)、銀行、保険会社
利用しているアプリは、生活と密接な関係にあるものが多い。また、人気のアプリを利用していることも多く、“シニア世代だから”といった年齢による固有の傾向はないようだ。
シニアが身近に利用している、政府や自治体のサイトについても検証する。
マイナンバーカードによりログインすることで、さまざまな行政サービスを受けることができるアプリ。
例えば、介護や子育てなど、行政手続きのオンライン申請が可能だ。住民票の写しの申請などが、自宅から簡単に行える。現状、2024年12月から現行の健康保険証は、新規発行をされなくなることが決まっており、マイナンバーカードを保険証として利用することが必須となる。
上記のように、マイナポータルアプリは便利なアプリだろう。しかし、現状はシニア世代にとって使い勝手が良いとは言えないと考える。そこで、ユーザビリティの観点から、シニア世代にとって使い勝手が悪いと思われる点とともに、改善点を挙げた。
・操作の複雑さ:
マイナポータルの画面や操作手順が、スマートフォンやパソコンの操作から設計されているのか、感覚的な利用手順になっておらず、複雑に感じられる。
・専門用語が多い:
「利用者証明用電子証明書」など、普段聞き慣れない専門用語が多く理解がしづらい。
・機種による違い:
マイナンバーカードを読み込ませる箇所が異なっており、スムーズな読み込みが困難なことがある。
・セキュリティへの不安:
シニアの感じる「漠然とした不安感」は、セキュリティ面での不安にあらわれることが多い。
以上のことから、シニアがマイナポータルアプリをスムーズに利用するには、次のような改善が必要と考える。
・シンプルで分かりやすい操作画面の設計:
より直感的に操作できるよう、画面のデザインや表示方法を工夫する必要がある。
・専門用語の平易化:
専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明することが重要である。
・セキュリティ対策の情報提供:
個人情報の保護対策を説明しつづけ、利用者の不安を解消する。また、指紋認証、顔認証などを導入するなど、複数の認証方法を検討することもよいだろう。
・サポート体制の充実:
シニア利用者は、もしもの場合に電話や有人窓口でのサポートを求めることが多い。
すべてを行政が提供するのではなく、ボランティアや地域住民の協力を仰ぎ、サポートを受けられる体制を検討するのも有効だ。
自治体アプリでは、防災アプリ、水道局アプリ、交通アプリなど、機能別にアプリが作られていることが多い。
例えば、東京都の防災アプリでは、さまざまな年齢層を考慮し、「一般モード」「キッズモード」「シニアモード」といった画面が選択できるようになっている。
シニアモードは、文字が大きく、現在の避難情報、気象情報が最上部に表示される。そして、自分自身と家族の情報登録やグループ連絡など、個人情報も登録できるようになっている。画面操作、登録が苦手なシニアでも、シンプルな画面設計により、操作がしやすい工夫がされている。
このような取り組みは非常に有効であるため、今後、広がっていくことが期待される。
シニアが利用するアプリの中で、自治体や防災関連のものは、日常生活と密接な関係にある。
シニア世代も、デジタル化により緊急時の連絡伝達がよりスムーズになるべきだ。より一層、積極的なデジタル活用が望まれる。そのためには、シニアと限定せず、あらゆる世代が使いやすく、わかりやすい設計になっていることが重要といえる。このことから、デザインや表示方法を工夫する必要があるだろう。