コミュニティ構築〜運用のHINTS&TIPS 第6回
ここまでの5回の連載を通じて、コミュニティが今注目される理由、ビジネスにおいて効果を及ぼす領域、コミュニティを立ち上げ持続的に発展させるためのヒントをお伝えしてきた。ここからは、複数回にわたり、コミュニティの目標設定や事業貢献の示し方を紹介する。今回はまず、コミュニティにおける数値測定の重要性と基本的な考え方を説明する。
ここまでの記事で、何度となく「コミュニティは曖昧な施策である」とお伝えしてきた。ここでいう「曖昧」とは、Web広告やセミナーといったマーケティング施策のように購買数やリード獲得数などの数値で短期的に効果を説明できないという意味であり、ビジネスへの貢献や関係性が曖昧でいいという意味ではない。予算や人員を獲得するにはコミュニティが事業に貢献するような戦略を描き、目標を設定し、実際に貢献していることを示す必要がある。
米国の調査組織The Community Roundtableが毎年発行するレポート「The State of Community Management 2020」によれば、同国のコミュニティではアクティブメンバー数、新規メンバーのアクティブ率、質問と回答の数、問題解決までの時間、そしてNPS(ネット・プロモーター・スコア)などをKPIとしている。とくに「質問と回答の数」が増えるほど問い合わせ工数の削減につながり、投資対効果(ROI)を発揮する。平均的なコミュニティのROIは6130%、優れたコミュニティのROIは、なんと9888%にも到達するという。
電話対応など高品質なサポートがある日本企業では、サポート工数削減のためのコミュニティ活用はユーザー側に受け入れられにくいというのが通説ではあったが、今後の人口減少を考えると将来的にはあり得なくはないだろう。
海外事例や他社の指標は参考にはなるが、そのまま取り入れるより自社の戦略と紐づけて検討するほうがよい。具体的には、大きく(1)コミュニティの目的、(2)コミュニティの成長フェーズを加味する。
(1)コミュニティの目的
コミュニティの目的は、第2回で記載したように大きく6つに分けられ、それぞれの目的によって追うべき指標は異なる。ここでは「カスタマーサクセス:CS(=顧客支援やアップセル/クロスセル)」および「マーケティング(=新規顧客獲得)」について例示する。
目的がCSならば、「既存ユーザーの満足」が重視される。ゆえにコミュニティそのものやイベントへの参加人数、その満足度が指標となり得る。アップセル/クロスセルといったCQL(Community Qualified Lead)があればなお良い。ここに事業の特性をかけ合わせ、特定の規模・領域のユーザーに絞り込む、法人のカバー率を取得するといった工夫もあり得る。
一方、目的がマーケティングであれば、コミュニティに参加する既存ユーザーだけではなく、まだ参加していない見込み顧客に情報を届ける必要がある。そのため、KPIとしては、イベント後のアウトプット(例えばイベントハッシュタグでのSNSポストや参加者のブログ)、新規参加者の人数や割合などが指標となり得る。
(2)コミュニティの成長フェーズ
コミュニティが通常の施策と異なるのは、コミュニティに集う参加者が活動の主役である点だ。(1)の目的が達成されるためには、まず、参加者が安心して意見交換ができたり、主体的に活動できるよう「コミュニティを育てる」必要がある。具体的には、称賛や日々のコミュニケーションを通じて文化を醸成し、活動的なリーダーを巻き込み、自走を促進する。
そのため、コミュニティの成長フェーズによりKPIは変化する。最初は、参加者との接点(=ヒアリングやイベント)の回数や参加者数といった「行動量」、成長するにつれ、例えば「投稿ユーザー数」や「ユーザー主体イベントの数」などに変わっていくだろう。
事業目的に偏ると、参加者は離れていく。反対に、コミュニティの成長に偏ると、経営陣や社内からの理解は得られない。この2つのバランスを上手くとり、参加者と事業の「共通の目的・価値」を創出することが、難しいと同時に重要である。ここに示した指標はあくまで例にすぎないが、考える参考にしてほしい。
KPIは大切だが、「KPIを達成していたにもかかわらず、コミュニティ活動ができなくなった」「上司が変わったら、急に予算が減った」といった例も実際に見聞きする。中長期的に事業にどう影響するかという戦略と、その進捗を示す中間指標を、経営陣と合意することが重要だ。
例えば、AWSのコミュニティ「JAWS-UG」を立ち上げ、日本で初めてコミュニティマーケティングを実践・定着させた小島英揮氏は、立ち上げ当初に「AWS以外が主催する場で登壇し、AWSについて話してくれるユーザーをコミュニティから次々に創出できるようにする」という目標をシアトル本社と合意したという。
これは、当時「クラウド型サーバー」はまったく新しいサービスで、ベンダー(AWS)からの説明だけでは、顧客の納得感が少なかったという背景から、「クラウド型サーバーの導入と効果について、(他のユーザーから)聞いたことがある」という状況を拡大することが、当時のAWSにとって重要だったからである。
冒頭に紹介した米国レポートによれば、平均的なコミュニティの46%は承認された戦略を持たず、また、78%は戦略の進捗を測ることができないという。裏を返せば、経営陣によって承認された戦略とその進捗を測る指標があれば、それだけで一歩抜きん出たコミュニティになれるとも言える。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年11月号 掲載)