ベネッセコーポレーション
カスタマーサクセス(CS)が、営業部門に属した場合、利益の追求が必須ミッションになることも多い。しかし、ベネッセコーポレーションのソリューション営業部は、企業のビジネス課題の解決に向けた伴走支援を最優先する。法人向けオンライン動画学習サービス「Udemy Business」のCSを担う同課は、利益の追求を見据えながらも、顧客の課題解決に向けたコンサルティングで伴走支援する。
ベネッセコーポレーションが展開するオンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」の法人向けサービス「Udemy Business」は、2019年にローンチされると同時に、カスタマーサクセス(CS)も開始した。
現在、ソリューション営業部内の約30名がCSを担い、顧客企業の規模別に、2グループ制を取る。200を超える顧客企業には、それぞれに担当者が付いている(24年7月取材時点での内容)。
企業規模によって、求められるコミットメントの方向性は異なる。大企業は、企業全体のリスキリングがテーマになることが多く、学習した人のキャリアの実現と業務に適用していく方法を、ともに考えるコンサルティング要素が大きい。一方、中堅企業では、受講者数はやや少なくなるため、大企業のような中長期的な関わり方よりも、事業戦略に沿った学習効果を、短期的にどれだけ発揮できるかが問われる。CS組織の立ち上げ時から在席し、現在は営業部全体を統括する中谷健太ソリューション営業部部長は、「中堅企業のお客様は、リスキリングやキャリア自律といった中期的なテーマよりも、今いるメンバーを、即戦力にしたいニーズが強いようです。そのため、どのようにUdemy Businessで学び、スキルを身につけられるかが求められます」と現状を語る。
コロナ禍を機に在宅勤務が始まった当初、Udemy Businessへの期待は、「品質を落とさない研修を、オンラインでいかに実施するか」だった。
しかし、コロナ以前に戻りつつある現在、期待される内容は変化している。「人的資本経営といった、人材を『資本』と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値の向上につなげるという経営手法に企業の関心は移っています。企業が抱える人事課題を、どう解決できるかに重点を置いた施策が重要と考えています」(中谷氏)。
CSの進め方は図のとおり、Phase01からPhase06までのサイクルを回す。
CSのKPIやKGIにあたる目標は、サービス継続率や、契約期間中の拡大受注金額。CS組織は営業部門に所属するため、売り上げ数値は必須事項だが、成功事例を創出するサイクルを、しっかりと回せるか。つまり“顧客にどれだけ伴走し続けるか”に重点を置いている。
Udemy Businessは、1〜2年の短期間では解約されにくい。中谷氏は、「サービスへの満足度や利用状況は、利用ID数へ顕著に反映されます。お客様に伴走して、課題をいかに解決し、効果を感じていただくかが、長期的な利用につながります。そのためにも、Phase06まで回しきることが大切です」と解説する。
経営貢献の観点でも、サイクルを回すことは重要になってくる。それは、フェーズが進むごとに、より多くの(顧客先)担当者と接点を作ることができるためだ。「フェーズが進むと、段階に応じた担当者の方と話す機会が生まれます。その際、新たな事業課題を伺うこともあります。過去には、『女性管理職を増やしたい』といったお悩みを伺い、当社の別事業によって解決に至った事例もあります。CSはお客様の課題を最初に把握できる組織でもあります」と中谷氏は強調する。
新たな役割として、顧客にとっての“人事のディスカッションパートナー”を目指している。
この“進化”のためには、対話や寄り添いのできる、サポートの素養を持つ人材を、組織に取り込む必要がある。「今後はより一層、お客様の課題をヒアリングし、解決に向けた提案を行うコンサルティング要素が強くなっていくでしょう。そうなれば、“数字を追いかける”、あるいは“稼ぐスキル”だけでは限界がある。サポートの素養も持ち合わせる人材は、お客様に寄り添い、解決策を探ることが上手です。こうしたメンバーが、私たちの組織では活躍しています」と中谷氏は語る。現在、同課の3分の1のスタッフに、何らかのサポート経験があるという。
ただし、サポートのマインドのみでも、CSは務まらないと中谷氏。
「サポートは、現場の困りごとを解決することが目的。しかし、Udemy BusinessのCSは、対象が顧客の上司や管理部門にもおよびます。例えば、“ありがとう”ひとつをとっても認識が異なってきます。私たちが求める“ありがとう”は、現場の担当者の方が、私たちの施策により会社から評価を受けての感謝の意味です。その方の上司、あるいは上層部の方々が目指す、事業戦略に直結する効果が発揮できることが大事。『Udemyやベネッセのおかげです』と言っていただけることが、当社のCSの価値です」。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年11月号 掲載)