カスタマーサクセス部門、組織化のポイント
「属人化」と「標準化」のバランス最適化
SaaS事業者のカスタマーサクセス部門立ち上げからLTV最大化までの事業開発と組織開発に関する連載、最終回となる今回は、「どのように組織化し、収益性を担保するか」に焦点をあてる。ポイントとなるのは「属人化」と「標準化」のバランス最適化だ。カスタマーサクセス組織の立ち上げから拡大、再構築の時期まで5つのフェーズごとにとるべき施策を解説する。
カスタマーサクセス業務は対応範囲が広く、企業のフェーズやプロダクトの性質(Must Haveか Nice to Have)により求められる役割が異なるため、「組織化が難しく、再現性がない組織」と指摘されることが多い。確かに、それは一面では事実だが、組織化までの順番と採用・育成については共通事項がある。
カスタマーサクセス組織がなくとも、その機能は営業部門が兼務しているケースが大半である。それゆえに、すでに解説した「カスタマーサクセスロードマップ」と、実際に顧客が歩むロードマップからその差分を見極め、顧客の成功要因や失敗要因を分析し、どのように対応すべきかの解を導くという点はどの企業でも共通する。
部門立ち上げ期は
営業・コンサル経験者を採用すべき
カスタマーサクセス部門は、組織変遷を大きく5段階に分けることができる。それがリリース期−立ち上げ期−全員野球期−効率/分業期−独立/再構築期だ。とくに共通して採るべき戦略は、(1)リリース期・立ち上げ期には営業・コンサル経験者を採用すべき、(2)業務の型化への取り組みや型化された後の業務には業務委託を積極的に活用すべき──の2点だ。
企業の創業期は、営業が顧客の要望に適宜合わせて受注する企業が多く(場合によっては将来的には戦略顧客になり得ない可能性もある)、どの顧客ならば再現性が高く、カスタマーサクセス支援できるかや、企業としても「最適なカスタマーサクセス」が明確でないケースは多い。そのためデータ、あるいはインタビューなどから情報を集め、分析・考察して顧客のサービス継続要因・解約要因を解明することが求められる。これらを実行できる人材を採用するには、必然的に営業やコンサル経験者が適性値の高い採用人材となる。もちろん、必ず経験職種から選ぶべきという意味ではない。
業務委託人材を積極的に活用し
収益性を担保する
次に共通する戦略は、業務委託人材を積極的に活用して収益性を高めるということだ。カスタマーサクセスを組織化した当初は、ハイタッチ中心の営業・コンサル的な動きがメインとなる。だが、顧客の増加に応じて、そのままの組織形態の運用では利益率が悪化していく。また、業務の標準化により経験の浅い人材でも同様の業務ができるようになり、必要な人材像も複数になる。ここにおいては、これまでの採用手法を見直す必要がある。なお、現在は売り手市場であり、流動性の観点からカスタマーサクセス人材の採用は非常に困難であるため、“本当に自社に必要な人材とは”を問い続けることが必要となる。
そこで、業務委託人材の活用をオススメする。活用するための観点は、(1)業務の整理・型化に活用する、(2)型化された業務を集中的に委託するの2点だ。
(1)は意外に思われるかもしれないが、立ち上げ期や全員野球期に高い効果を発揮する「日々顧客に接し、一次情報を多く持っている社員が業務の整理と型化をすべき」という考えが一般的だが、社内資料の精査、社員や顧客へのインタビューを通じて業務を整理し、型化するという一連の作業を片手間仕事として実行するのは容易ではない。目の前の顧客対応と新規案件の対応に追われ、ナレッジマネジメントまで手が回らないからだ。簡易的に整理している企業も多いが、多くのケースでは、新人が入ってみると、そのナレッジは使えるレベルではないことが明らかになる。業務委託による外部の視点での整理を行うことで、新たな発見や部門内交流の活発化、適切な採用を実現することができる。ポイントは、オンボーディングやアダプションなど、フェーズごとに型化された業務を委託することだ。工数管理、稼働時間ともに配分しやすい、さらにカスタマーサクセス経験者であれば安心して任せることができる。
以上がカスタマーサクセスフレームワークを用いた部門立ち上げ方法の4点目のイシュー「どのように組織化し、収益性を担保するか」である。全3回でカスタマーサクセス部門の立ち上げから組織化までの方法について解説した。カスタマーサクセス部門の成功は、企業全体の成長と顧客満足の向上に大きく寄与する。そのためには、戦略的な採用、業務の型化、適切な人材の活用が鍵となる。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年3月号 掲載)