2022年4月号 <市界良好>

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

顧客体験を考える

秋山紀郎

 かつて“カスタマーエクスペリエンス”が日本にやってきたとき、日本語では何と言うべきか悩ましかった。今では、顧客体験という表現が定着しつつある。誰もが分かっていることだが、良い顧客体験がなければ、どのビジネスも成功しない。しかし、その顧客体験の提供は誰の責任かと問われると、きちんと答えられる人は少ない。顧客体験の提供は、コンタクトセンターや店舗など顧客対応部門だけの努力では成功しない。支店のバックオフィスも、人事部やIT部門などもその責任を担っている。

 例えば、スマートフォンの料金プランの見直しを検討していたとする。現在の料金や変更後のシミュレーションがオンライン上で安心してできるかは、Webサイトの設計や機能といったITが大きく影響する。そもそもの料金プランが複雑で変更に対する注意点が多いと、顧客体験にはネガティブに働く。これは商品・サービスの設計の問題である。結局、店舗で相談したり手続きしたりしたとすると、委託している販売店の顧客対応力や知識などが顧客体験に影響するのである。このように、顧客体験は、複数組織が連携して取り組んだ成果である。

 顧客体験に取り組む際の最大の課題は、その数値化が難しい点にある。顧客対応部門で丁寧な応対を心掛ければ、顧客体験は良くなるが、丁寧さの数値化は困難だ。顧客体験の数値化のひとつの手法としてNPS、つまり友人や家族などに商品やサービス、あるいは企業そのものを勧めたいかを尋ねるのも良いだろう。しかし、顧客による推奨度が顧客体験を正しく示すということではない。評価の星の数が多いレストランやホテルで、期待外れを経験した人も多いはずだ。顧客はまちまちであり、それが友人や家族であっても、自分の価値観と同じではない。また、すべての顧客からNPSや満足度を測定することもできない。サービス向上のためのアンケートは一般化しているが、トラブルが生じたときや、1回の応対で問題が解決しないときに、アンケートは頼まれない。その逆に、比較的簡単な対応が完了したとき、アンケートは依頼される。チャットボットの解決度も満足度も、最後まで使った人だけが評価する。このような場合、数値は上振れすると考えた方がいいだろう。一方、FAQにある「役に立ちましたか」の設問は逆の傾向がある。役に立たないときに押されやすく、FAQで理解した人は満足してその画面から立ち去るので下振れする。従って、ネガティブな反応が多いFAQを重点的にメンテナンスすると良い。

 ビジネスの要点は、業種によっても、それぞれの顧客によっても異なる。だから、すべての状況に適合する指標は存在しない。それにも関わらず、NPS、顧客満足度、ペインポイントなどの指標だけを追い求めていくのは、思考停止の入口だろう。新型コロナ対策として非対面へのシフトが急がれている。だからDXだと銘打って、デジタル技術に投資して、デジタルチャネル、データの一元化や連携を図るとCXの向上になると決めつけるのも良くない。現場から得られた各指標の意味を考え、1つひとつの事象をとらえ、議論し判断して改善していくプロセスが、顧客体験の向上なのである。

2024年01月31日 18時11分 公開

2022年03月20日 00時00分 更新

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