2018年11月号 <わたちゃんのかすたま〜えくすぺりえんす>

わたちゃん

イノベーションの落とし穴──
なぜか忘れられる既存事業

ISラボ 代表 渡部弘毅

 最新のダイエット法を聞くと、つい試したくなる、わたちゃんです。いま気になっているのは、乗るだけでお腹周りがブルブル振動して内臓脂肪が取れるというマシンです。これならいけそうな気がしてます。

 経済界では、「イノベーション」という言葉が花盛りです。企業は停滞ムードの業績や社内組織にカツをいれるカンフル剤としてイノベーションを魔法のキーワードのごとく多用しており、セミナーや書籍市場でも重要なキーワードになってきました。とくにイノベーションを生む組織や人材育成の在り方が広く議論されるようになり、先進的な企業がベストプラクティスとして紹介されています。なかにはイノベーションを生むことを目的とし、しかもノルマとして組み込んだ組織まで登場し「ちょっと違うんじゃないかな?」とか思ったりもしています。

 こうした華やかな議論を眺めていると、“既存事業の停滞の逃げ”として魔法のキーワード「イノベーション」を使っているのではないかと思う瞬間があります。

 企業の現在の収益を稼いでいるのは当然、既存事業です。そして新規事業のミッションを専任で負っている組織以外、ほとんどの従業員はその既存事業に携わっています。そして既存事業でまだまだやるべきことが多くあるにも関わらず、経営トップから新規事業のイノベーションにスポットライトを当てて、「我が社の停滞ムードを打破するためにはイノベーションによる新製品の開発が必要です!! 皆さんも今までの古い考えを改めて、新しいことにどんどんチャレンジしてください」といった、まるで既存事業を忘れ去ったかのような無責任な発言が聞かれます。

 現在の収益の多くを稼ぎ出している基幹事業に携わっていて、大胆に新しいことにはチャレンジできない従業員は「自社の将来に貢献できない仕事に携わっているのでは?」という不安さえ覚えかねません。

 イノベーションとは、技術革新による新製品やサービスの開発という意味だけでなく、幅広い新機軸を創り出すことです。イノベーションの父ともいわれる経済学者のシュンペーターはそのことを指摘し、その流れをくむ形でOECD(経済協力開発機構)はイノベーションを4分類に集約しています()。この分類によるとイノベーションとは新規事業だけが対象ではなく、既存事業でのイノベーションも重要であることが分かります。魔法のキーワードで既存事業を忘れてはいけないのです。「イノベーションで既存事業を活性化する」という考えが重要です。

 ということで、僕もイノベーションによる新ダイエット支援製品やサービスにすぐに飛びつくのはやめて、今のジム通いの中からプロセスイノベーションを見つけてチャレンジすることにします。まあ、そんな高いものを買うお許しは、絶対にカミサンから出ないことですし。

図 OECDのイノベーション4分類

図 OECDのイノベーション4分類