
Part.1 <現状と課題>
商品を選ぶ。トラブルの原因を調べる。規約や機能を確認する。さらに、企業への要求を整理し、文章まで作る。こうした行動を生成AIが支援することで、顧客と企業の「情報格差」は急速に縮小。むしろ逆転しつつある。今後、企業に求められるのは、AIを使う顧客を警戒することではない。正しい情報をAIにも届く形で発信し、知識武装した顧客に適切な対応ができる現場をつくることだ。
情報収集や判断に生成AIを使う消費者は、もはや少数派ではない。商品を選ぶとき、故障したとき、契約内容に疑問を持ったとき、解約や返金を求めるときなど、さまざまなシーンで、まずAIに相談する。
こうした消費者行動の変化によって、すでに顧客対応の現場にはさまざまな影響が出始めている(図)。
問い合わせの性格は、「質問」から「確認」や「交渉」へ変化。従来の応対マニュアルやFAQでは対応しきれない問い合わせが集中し、オペレータの負担は増す。
クレームの姿も変わる。契約書やメール、利用履歴などを生成AIに読み込ませれば、時系列や争点を整理した長文を短時間で作れる。
顧客が、AI検索を使うことを止めることはできない。むしろ、それを前提に顧客接点を設計し直すことが肝心だ。顧客が何を不安に感じ、何を勘違いし、どの条件を確認し、どの言葉で検索・相談するのか。問い合わせやVOCから顧客の疑問と誤解を捉え、必要な情報をナレッジとして構造化し、正しい情報へ変換して社会に返す。その機能こそ、AI時代の顧客接点に求められる役割になっていく。


Part.2 <ケーススタディ>
AIを使う顧客に備えるには、ナレッジ、公式情報、オペレータ支援AI、エスカレーション基準、顧客への注意喚起まで、複数の仕組みを連動させる必要がある。重要なのは、情報提供から有人対応までを一連の顧客接点として設計することだ。その際、各施策の役割と接続点を明確にし、運用に落とし込む視点が欠かせない。Part2では、メルカリとバッファローの実践を交えながら、5つの備えと実装の要点を整理する。
AIを使う顧客への対応では、問い合わせ窓口だけでなく、情報整備から現場支援、判断ルールまでを一体で設計する必要がある。その柱となるのが、「ナレッジ整備」「オペレータ支援AIの構築」「エスカレーション基準の定義」「AIに検索される公式情報発信の強化」「顧客教育・注意喚起」の5つの備えだ。
メルカリでは、規約を起点に情報の整合性を保ち、AIも活用しながら難しい案件への対応を支えている。また、PC周辺機器メーカーのバッファローは、外部の生成AIによる自己解決を踏まえ、自社FAQの充実や、有人対応で得たVOCの活用を進めている。
AI時代には、正しい情報を先回りして届け、AIで解決できない案件を人と組織で受け止める仕組みが重要になる。顧客のAI活用を前提に、情報、応対、判断をどう組み直すべきか。本稿では、メルカリとバッファローの事例から検証する。


Part.3 <座談会>
AIが商品選びや問い合わせの“入口”になる時代、企業にとって次の課題は、顧客がAIの言いなりにならず自身の価値観から「この会社だから買いたい」と選んでもらえる関係をどう築くかである。AIと人の役割分担、その企業らしさが伝わる対話、ファンを育てる顧客接点とは何か。コールセンタージャパン編集部が8月、東京都内で開催したイベント「生成AI×コンタクトセンター・サミット─ボーダレスCXが拓く未来─」の基調鼎談から探る。
AIが商品選びや問い合わせの“入口”になると、企業は顧客だけでなく、AIにも選ばれる必要がある。商品やサービスの特徴を正確に伝えることに加え、利用者の体験や、その企業ならではの考え方まで含めて、選ばれる理由をつくることが重要になる。
一方で、AIが比較や推薦を担うほど、「この会社だから選びたい」と思ってもらえる関係の価値は高まる。定型的な手続きはAIに任せ、人が対応する場面では、共感や期待を超える体験、その企業らしさが伝わる対話が求められる。
AIと人をどう役割分担し、「この会社だから選びたい」と思うファンとの関係をどう築くのか。本稿では、ファンベースカンパニーの佐藤尚之氏とAICX協会の小澤健祐(おざけん)氏の座談会から、その条件を探る。
<パネリスト>(順不同)


<モデレータ> コールセンタージャパン編集部