船井総合研究所(東京都中央区、真貝大介代表取締役社長)は、7月29日、都内の船井総合研究所本社で金融機関向け研究会「Financial Industry Executive Leader Summit」を開催した。第9回となる今回は、「CXとコスト・収益を両立する生成AI活用の実装フェーズ」をテーマに、講演とグループワークを通じて、金融機関における生成AIの活用と業務実装に必要な取り組みを共有・議論した。
第1講座では、新生フィナンシャル 執行役員 企業戦略本部 イノベーション推進部長 兼 CAIOの川西雅裕氏を迎え、「顧客起点のAI・データ戦略変革 データ戦略で描くCX向上とROI創出の未来」と題して講演した。
同社は現在、主に資料作成や事務作業などの間接業務に生成AIを活用しており、今後は業務システムへの本格的な組み込みを計画している。一方、PoC(概念実証)を進めるなかで、AIの性能は入力するデータの量と質に大きく左右されることが明らかになったという。川西氏は、「AIをどこに活用するかを考えるのと同時に、入力するデータをどう準備し、統制するかを考える必要がありました」と強調した。
そこで、社内に分散するデータを集約し、データ項目の名称や定義を明確にするなど、AIが適切に参照・処理できる形への整備を推進している。不要なデータを整理する「断捨離」や、データの所在と利用目的を明確にするマッピング、データオーナー制度の導入などにも取り組む。また、AI活用にあたっては、既存業務の一部にAIを追加するのではなく、AIを前提にプロセス全体を再設計することが重要だと指摘。コスト削減だけでなく、CX(カスタマーエクスペリエンス)や収益への効果をKPIとして設定し、導入後も成果を継続的に検証する必要性を強調した。併せて、管理職による「生成AIパスポート」の取得など、社員教育も進めている。
第2講座では、船井総合研究所 ZOHOコンサルティング部 マネージング・ディレクターの橋本吉弘氏が、「金融業務がここまでAI化できる ボイスLLMとAIエージェントが変える業務の未来」をテーマに講演した。
橋本氏は冒頭、近年のボイスLLM(音声で人と対話できる大規模言語モデル)は、利用者の割り込みや言い直しに対応し、相づちを交えながら会話を継続するなど、自然な対話性能が急速に向上していると説明。映像をリアルタイムに認識し、位置情報を取得するなど、画像や業務システムと連携した活用も可能になりつつあるとした。
講演では、ボイスLLMを活用したロードサービス受付のデモンストレーションを披露した。事故を起こした顧客から状況を聞き取り、契約内容や現在地、車両の状態を確認し、レッカーの手配まで案内する内容で、AIが顧客と自然に会話しながら必要な情報を整理する様子を紹介した。橋本氏は、こうした技術の進化により、住宅ローンや相続の相談、法人融資の一次ヒアリング、保険事故受付、社員向け照会など、従来は人による応対が必要と考えられてきた業務にも、AIの適用範囲が広がっていると説明した。
なお、デモンストレーションに使用した仕組みは、橋本氏が1人で2時間以内に作成したという。橋本氏は、「重要なのは、AIを1つ選ぶことではありません」と強調。音声対話や画像認識、複雑な判断など、業務ごとに適したAIを組み合わせ、既製のパッケージに業務を合わせるのではなく、実現したい業務プロセスを起点に仕組みを設計する時代になったとまとめた。
船井総合研究所 プロシード事業部 マネージング・ディレクターの野村昇平氏によるまとめ講座では、生成AIの導入構想と、日々の業務に追われる現場の実態との間にギャップが生じていると指摘した。AI時代のコンタクトセンターに求められる取り組みとして、「AIとの協働」「リスキリング」「ガバナンス」の3点を挙げた。
野村氏は、AIをどの業務に適用し、どこに人の判断を残すのかを明確にするとともに、オペレータやSVの役割、研修、評価制度も見直す必要があると指摘。AIを単なる人員削減の手段ではなく、現場の従業員がより働きやすく、力を発揮するための手段と位置づけ、現場主導で活用を進められる環境を整えることが重要だとまとめた。
講座の合間には、「自社の生成AI活用状況と導入上の課題」「AIの進化によってコンタクトセンターはどう変わるか」をテーマに、参加者と同研究所のコンサルタントによるグループワークを実施した。AIを活用した研修やロールプレイ、社内に点在する資料の整備など、各社が抱える具体的な課題が共有され、各テーブルで活発な意見交換が行われた。