実践編
第10回
大規模コンタクトセンターは、当然ながら、顧客の数もかなりの人数にのぼります。一度でもシステムトラブルやサービスに関するトラブルが発生すると、顧客にも大きな影響が生じて、問い合わせもとんでもない数となります。大きな事故が発生し、放棄呼が1分を過ぎるたびに1000以上増えていき、あっという間に6000を超えた事件について現場から報告します。
大規模センターは、抱えている顧客が多いため、それに比例して問い合わせや相談の数も非常に多くなります。当然のことながら、対応するためのオペレータの人員数も自然と多くなります。
電力会社のコンタクトセンターでマネージャーをやっていた時のことです。そのセンターは、生活基盤を支える企業のため、24時間365日の顧客サポートが必要となります。当然、オペレータやSVは、夜勤もありますし、土日祝も対応しないといけないわけです。
夜勤は、電話もあまりかかってこないため、当時は4人体制で運用していました。停電などなければ、電話も全然かかってこないので、4人でも多いくらいなのですが、それ以上人数を減らしてしまうと、休憩や仮眠が取れなくなってしまうからです。
ある夜に台風が到来しました。天気予報で予想はしていましたが、直撃のコースです。しかし、まだ問題は起きていなかったため、私は仕事から帰って、家でくつろいでいました。すると、深夜、夜勤のSVから私の携帯電話に連絡が入りました。
夜勤のSV:「寺下さん。SVのSです。夜分、お休みのところ申し訳ありません。台風で……や、やばいことになっています。助けてください!」
寺下:「分かった。すぐ行くよ」と言って、急遽、車でセンターに向かいます。

とりあえず、夜勤のSVを早く助けなくてはならないため、急いで車でセンターに向かいました。夜勤のSVは、待っていました! とばかりにクレームの二次対応をしながら、私にある方向を指で示しています。指差した先を見ると……そこには、応答率や着信状況を示す大型モニターがあります。
そこには……「待ち呼700」の文字。目を2回くらいこすって、もう一度よく見てみます。何度見ても、間違いはありません。日頃、センターを運営していても、滅多にお目にかかれない数値です。日常でも10以上の待ち呼は滅多に見ないので、ある意味、異常です。
着信数の増加に比例して、放棄呼も数十秒おきに、1000、2000、3000……と、1000単位で増えていきます。折角、目標応答率達成のために日々コツコツと積み上げてきた数字は、すべて水の泡です。応答率も10%を切っています。なんせ夜勤のオペレータ4名VS停電になっている数万人のお客様という構図のため、仕方ないのです。おぉ……これは本当にやばいかもしれない。本気でそう思いました。
早速、緊急連絡網に従って、日勤で既に帰宅したSV数名を電話で叩き起こし、招集をかけます。オペレータにも電話をかけ、総動員体制です。呼び出しから30分くらいすると、既に寝る準備をしていたSVやオペレータが続々と集まってきます。会社が負担してでも、オペレータを集めなければならないので、タクシーも用意して、急遽、出動要請をします。クレームも多発している大変な状態ですが、なんだかセンター内は、深夜なのに、まるで日中のようにワイワイと盛り上がっていきます。
そこにセンター長が登場。センター長は、大型モニターを見て、計算機を叩いて計算しています。そして、応答率の低さにビビったのでしょう。顧客対応を終えた私の所に近寄ってきて、こんなことを言いました。「寺ちゃん、回線数絞ろうか」と。
回線数を絞ることで、応答率をコントロールできますが、コンタクトセンターでは御法度の技です。自分の保身のための回線数の絞りなんて許されるものではありません。「センター長、それは絶対やってはいけないことです。やらないほうが良いです」とキッパリと伝えると、がっかりした様子のセンター長は何も言わずにセンター長席に座って、我々の対応の様子を遠くから眺めていました。
総動員でやっているので、SVもクレーム対応用の人員を残して、ほとんどが電話対応に入ります。大半の問い合わせは、「今、停電してる?」という質問です。その際の案内例も決まっているので、必要最小限のエスカレーション対応者を残して、全員で対応します。そして、オペレータやSVも何の垣根もなしに、お互い助け合ったりしています。それでも、事態は一向に良くなりません。
SV:「寺下さん、放棄呼6000超えましたぁー! 待ち呼もさらに増えています!」
対応しているオペレータやSVも大型モニターに映し出される見慣れない待ち呼や放棄呼の数を見て、びっくりしています。

時間が経過するにつれて、電力会社の作業者も停電箇所の復旧作業を懸命にした甲斐もあって、電話の問い合わせも徐々に減少していきます。しかし、台風の厄介なところは、県をまたいで通過していくところです。せっかくA県の問い合わせが収束しても、台風が進む方向にあるB県にお住まいのお客様からまた、ひっきりになしに電話がかかってくることになります。結局、私は、2日間ほどセンターに寝泊まりして対応することになりましたが、大トラブル時こそセンター全員が結束するチャンスだと改めて感じました。