コラム
第171回
今でも、インターネット回線の切り替え目的の営業電話がランダムに入ることがある。電話口のオペレータはアルバイトだろうからと気遣って丁寧にお断りの話をしている最中、一方的に電話を切られたりすると頭にくる。まあ、断られても引きずらないメンタルの強い性格の人が就いているのだと思う。一般的には、ノルマのある架電業務の時給は高くなることが多いが、ストレスや心理的負担が大きくなりやすい。とくに厳しい件数目標などによる成果要求が続くと、オペレータの疲弊や離職率上昇につながる可能性がある。また、ノルマのある架電業務のオペレータと、インバウンド対応のオペレータに求められる資質は大きく異なり、向き不向きの差が大きい。
ところで、ノルマの語源を調べてみると、「標準・基準となる作業量」を意味するロシア語であり、主に旧ソ連の労働現場やシベリア抑留などを通じて第二次大戦後「各自に課せられた最低限達成すべき仕事量」というニュアンスで日本に定着した、という。日本でノルマというと、達成が強く求められる制度としてネガティブな印象があるが、米国における営業職文化では、目標達成が高いインセンティブ、つまり報奨金と結びついており、達成したい目標として前向きに語られるそうだ。ちなみに、ノルマに近い英語は、QuotaやTargetとなる。
以前は、生命保険や訪問販売、新聞購読など営業担当者に課された厳しいノルマを背景に、しつこいセールスもあったものだ。かなり昔の印象だが、玄関口でのやり取りを思い出す。知り合いを通じた購入依頼、野球観戦チケットなどのおまけもあったものだ。今は、「インターネット検索と購入」が消費者に普及したことや、不適切な押し込み販売や架空計上といった不正リスク、未達成者への過度な叱責がハラスメント問題に発展するケースが増加したこともあり、見直す企業が増えている。一消費者としては、あの手この手による価格交渉ができないときは面白みがないと感じることもある。一方でノルマを撤廃した企業では短期的な生産性低下や優秀な人材のモチベーション低下も報告され、目標管理との両立が課題である。KPIと行動管理との組み合わせや、チーム制の採用などにより、個人への負荷が過度に集中しないことも重要となる。
私が、ちょうど自動車の買い替えの時期で、ディーラー訪問をし始めた。試乗したり店舗に住所を明かしたりしてしまうと、しつこいセールスが来ると身構えつつ、いくつものディーラーを回った。しかし、各社とも思いのほか、あっさりしていた。自宅ポストに御礼の手紙が入っている程度で、電話はおろかメールなどもあまり来ない。物足りなさを感じなくもないが、こちらの事情を含めてニーズを丁寧に聞いてくれる時間が取れるため、店舗でいろいろな質問をするなど安心して相談できると感じた。決め手になるのは、車の仕様や試乗車の乗り心地だけではない。車を購入するのにもかかわらず、スタッフ対応を含めた店舗での体験もとても重要なのである。架電業務を含めた営業職というのは、短期的な売上向上だけでなく、企業における顧客体験全体の向上を担う難しい仕事になっている。