
カスタマーハラスメント対策は、2026年10月から、改正労働施策総合推進法により義務化される。その必要性や対策がもたらす効果への理解は十分ではなく、「やっているつもり」に陥っている企業も多い。「カスハラ対策は、離職・採用・生産性を左右する」と語る香川希理弁護士に法改正の意義や、見落としがちな要点を聞いた。
──2026年10月に施行される改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント対策がすべての企業で措置義務になります。改めて、何が変わるのでしょうか。
香川 努力義務の段階では、取り組みが不十分でも直ちに問題になることは少なかったです。しかし、措置義務になることで、対応していない場合は行政処分の対象になります。現時点では、刑事罰が科されることはありませんが、企業名の公表など社会的評価や信用に直結するリスクは見逃せません。
さらに重要なのは、求められる対応が「事前対策」にとどまらないことです。厚生労働省の指針でも、発生後の対応、つまり事後措置まで含めて義務化されています。悪質な事案に対しては、警察への通報も含めた対応が必要になる。これは、形式的にマニュアルを整備するのでは不十分と言え、「実際にカスハラが起きた際にいかに動けるか」が問われる段階に入りました。
──なぜ今、国は義務化まで踏み込んだのでしょうか。
香川 背景には人手不足と生産性の問題があります。クレーム対応そのものは昔から存在していました。それが、2018年ごろから「カスタマーハラスメント」という労働問題として、急速に社会に認知され始めました。
近年は人材売り手市場が続き、企業は人材を確保できなければ事業が成り立たない状況にあります。また、メンタルの不調がもたらす経済損失は、無視できない規模になってきています。横浜市立大や産業医大などの研究チームは、GDPの1%強に相当する年間約7.6兆円と試算しています。このうち、どの程度がカスハラによる影響があったかまでは調査されてはいませんが、カスハラ対策は個別の企業の問題だけではなく、国全体の経済にも影響を及ぼす問題といえるでしょう。つまり、今回の法改正は、労働生産性を引き上げるための政策でもあるといえます。
──対策が不十分な企業は、どのような対応を行うべきでしょうか。
香川 大前提として、自社の実態を把握することが不可欠です。具体的には、アンケートなどを通じて、どのようなカスハラが発生しているのか、どの部署に負荷が集中しているのかを把握する。これを行わずに対策を進めても、実効性は担保できません。そのうえで、基本方針の策定やマニュアルの整備、研修、相談体制の構築といった対応が望まれます。