実践編
第6回
あるお客様に郵送するはずの郵送物がオペレータのミスにより別のお客様に郵送された事件。着払いで返送をお願いしてことなきを得たものの、今度は手違いからセンターで受け取り拒否をしてしまいました。しかも、郵便局でその郵送物が行方不明に! それを知った当のお客様は大激怒。電車に乗って、お客様の所に謝りに行くと、そこにいたのは別会社のコールセンターで働くオペレータでした。
コールセンターでは、付随業務で事務手続きも一緒にやっている所は結構あります。その会社では、お客様はサービスの料金を口座振替、またはコンビニエンスストアの振込票で支払うルールになっていました。お客様は、コンビニで毎回支払うのも面倒なので、9割以上の人は口座振替を選択します。当然、口座振替にするには、事前に口座振替の申込みをする必要があります。そんな時に事件は起こりました。真っ青な顔をしたSVが私のところに来て、こんなことを言ったのです。

「寺下さん、口座振替希望のお客様なのですが、口座振替依頼書に不備があったので、返送しようとしたところ、別のお客様に郵送してしまいました」
関係者を全員集めて、時系列で起こったことを整理しました。
Aさんというお客様から口座振替の依頼書が届いて精査したところ不備があり、このままだと受け付けができないので封書で返送しようとしていました。一方、Bさんというお客様からも口座振替の依頼書がありましたが、不備があったので返送しようとしました。しかし、Aさんに返送するはずの郵送物を間違ってBさんに、Bさんに返送すべきはずの郵送物をAさんに送ってしまったのでした。
私は、SVに回収の指示を出しました。本来ならば、Aさん、Bさんの自宅にお伺いして、郵送物を回収すればよかったのですが、SVはAさん、Bさん、それぞれのお客様に電話で事情を説明し、開封しないまま着払いで返送してもらうように依頼しました。2人のお客様は快くOKの返事をしてくれ、事件はそこで終わるはずでした。
しかし、着払いで返送してくれた2通の郵送物をコールセンター側で受け取り拒否をしてしまったのです。センターでは、通常、着払いの郵送物は受け付けしていませんでした。着払いの郵送物を受け取るには、総務に事前に話しておくべきだったのです。しかし、総務担当に事情を説明しておらず、着払いの2通の郵送物は、見事、受け取り拒否されてしまったのです。
当然、お客様が善意で返送してくれた郵送物は、郵便局が持ち帰ってしまいました。郵送物が届かないことを不審に思ったSVが総務に確認したことで、受け取り拒否をしてしまったことが判明。焦ったSVはすぐ郵便局に連絡しました。しかし、さらに運の悪いことに、郵便局で確認したところ、郵送物は2通とも紛失してしまったと言うのです。
Aさんに事情を説明したところ、当然のことながらお怒りになり、電話でたっぷり2時間絞られ、謝罪を求められました。しかも、自宅を訪問して謝罪するように要求されたのです。
その日の午後、マネージャーだった私は上席と一緒にお客様の自宅に電車とタクシーで向かいました。ピンポーンと呼び鈴を鳴らすと、Aさんが出てきました。見た目、男性30代後半。我々が身分を明かすと家の中に入れてくれました。
事情を説明し、上席と2人で深く頭を下げ、謝罪しました。Aさんからは、「お宅が着払いで返送しろと言ったのに拒否するとは何事なのか」「そもそも個人情報が入った郵送物を他人に送るなんてあってはならないこと」など、おっしゃることはごもっともな内容ばかりなので、こちらは平身低頭で謝るしかありません。
しかし、許しを乞おうと思っても、なかなか許していただけません。内容が内容だけに仕方がないなとは思いつつも、通常だと終息の兆しが見えてくるのですが、この時は全然見えてきませんでした。時に声を荒げて怒ったり、詰め寄ってきたりします。痛いところを突いてきて、変な汗が出てきます。
2時間くらい経ったでしょうか。Aさんが「もういいです。あなた方の気持ちもよく分かりますから。なぜなら、私もコールセンターで働いているからよくわかっているんです」。上長と顔を見合わせ、2人で「えっ」となりました。
Aさんは同業者なので、コールセンターの事情をよく知っていたのです。だから、クレーム対応も手強かったのです。なかなかクレーム対応が前に進みづらい理由がようやく判明しました。
最後にAさんは、「オペレータも人だからミスをします。それもよく理解できます。だけど、大事な個人情報をなくすことはあってはならないことです。それだけは分かっていただきたい」と叱責。
上長と、その点については重々承知していますし、郵送物はなんとか見つけるよう引き続き調査する旨、お約束し、再度謝罪して、Aさん宅を出ました。

帰りの電車では上長と「いつものクレームと違って、相手もよく我々のことを分かっている方だから、余計に対応しづらかったね」と話をしながらセンターに帰ってきました。帰着すると、SVから、その後、郵便局から郵送物が見つかったと連絡があったことを告げられ、すごくホッとしたのを記憶しています。
改めて個人情報の取り扱いには十分注意が必要で、万一紛失してしまうと大きな事故に発展することに気づかされた事件でした。