実践編
第5回
オペレータの対応や企業の提供する商品・サービスでクレームになったとき、お客様が激怒して来社を予告してくることがあります。しかし、まさか本当にコンタクトセンターまで来ることはないと思っているため、実際に来社されると恐怖を覚えることになります。今回は、あるSVの不手際からお客様が本当にやってきた! そんな事件を紹介したいと思います。
オペレータの対応や企業が提供している商品・サービスがもとで、クレームになることがあります。時にお客様から「ぶっ殺すぞ!」とか、「お前、今から会社に行くからな!」と脅されることもありますが、電話だからそれは難しいという思いが、お客様やオペレータなど関係者の双方にあったりします。だからこそ、実際に直面すると恐怖を覚えたものです。ある事件が起きた時もそうでした。

私がある大規模センターのマネージャーだった時、SVのAがこんな報告をしてきました。「マネージャー、1つご報告があります。○○県にお住まいの○○さんですが、オペレータからエスカレーションを受けて対応したところ、私の対応が良くなかったようで、さらに激怒されてしまい、『今から会社に行くぞ!』とおっしゃってました。ただ、ご自宅からは200km離れているので、本当にいらっしゃることはないとは思いますが、念の為、ご報告しておきます」と告げられました。
一種の脅しもその場限りのことが多く、しかも自宅から200kmも離れていれば、本当に来ることはないと思っていたので、クレームの元となったオペレータの対応について指導するようAに伝え、いつも通り仕事をしていました。
午前中にあった報告も忘れかけていた夕方頃に、事件は起こりました。一本の社内携帯電話がセンターで鳴りました。社内の人から緊急連絡がある場合にかかってくる、社内専用の携帯電話でした。「はい、○○センター○○です」とSV席に座っていたSVのCさんが電話を取ったのですが、「センターの一番偉い人を出してくれと言っています」と言って、携帯電話を私に差し出してきます。意味も分からないまま電話を代わると、1階の警備室にいる守衛さんでした。
守衛さんが慌てた声で「お疲れさまです。1階の守衛です。お客様が1階の受付窓口で暴れておりまして、コールセンターのAを出せーって叫んでいます。申し訳ないのですが、来てもらえますか?」と報告がありました。
え? 来たじゃん。200km離れているけど来たんだ。距離は関係ないんだ。そう思い、すぐSVのAの所に行き、「Aさん、来た」と告げると、エスカレーションを受けている所でしたが中断し、他のSVに代わって、私と一緒にエレベータに乗って1階に降りました。
急ぎ足で受付に行くと、他にも来社されているお客様が数名いましたが、1人だけ顔を真っ赤にして、激怒しながら大声で叫んでいる50代くらいの中年の男性がいらっしゃいました。警備員に制止されながらも、「SVのAを出せー!」と叫んでいます。
お客様に近づこうとした、その時です。お客様は、激怒した声で、私に向かって突進してきます。いきなり私の胸ぐらを掴んで、「お前がAかぁ?」と怒りながら聞いてきました。私は、声にならない声で「ち、違います」と言うと、今度は、近くにいたAに向かって突進していきます。また同じように「お前がAかぁ?」とAの胸ぐらを掴んで言うと、Aが「そうです」と真顔で答えた瞬間でした。私が制止しようとする間もなく、Aさんはかけていたメガネを取られ、それを地面に叩きつけられてしまったのです。
当然のことながら、メガネのレンズは粉々に割れてしまいました。メガネが割れたことで、ことの重大さを知ったのか、少し怒りが収まったようで、やっとお客様が胸ぐらを掴んでいた手を離してくれました。
話を聞くと、オペレータの誤案内で腹を立てていた時に、上司に代われと言ったらSVのAが出てきたものの、Aがきちんと気持ちを込めて謝罪しなかったらしいのです。きちんと謝れば、そこで済んだ案件だったのですが、Aの対応が良くなく、その後は互いに売り言葉に買い言葉みたいになっていたらしく、だからここまで200km以上離れているけど来たんだと、そうおっしゃっていました。

ただ、お客様も冷静になってみれば、こんなことをやってしまったという反省で、とても恐縮されていました。センター側の対応の非を詫び、お客様も私やAへの対応に関してお詫びされ、メガネも弁償してもらうことになりました。ただ、やってしまった事実は変わらないので、守衛さんが我々の対応の間に警察に通報していたらしく、お客様は警察官に連れられていきました。
対応を終わった後、SVのAに「怖かったよね。大丈夫?」と聞くと、意外な反応でした。
ポツリと「怖かったですけど、それよりショックなのは、メガネのほうです。私は目が悪く、度がきついメガネをしてるんですけど、度が強くなると分厚くなるんですが、薄型にしているため結構高いんです」と。5万円以上はするらしく、またメガネが出来上がるまで、メガネなしの生活が続くことが不安だと言っていました。
お客様も怒ったら、距離なんて全然関係ないんだなと思いましたし、たった1度の誤案内がこんな事件を生んでしまうんだなと、改めて実感した出来事でした。