Part.1 <現状と課題>
コールセンター、とくに電話対応の要員確保は、もはや絶望的な採用環境にある。結果、業界をあげてノンボイス対応や自動化にまい進しているが、「本来のあるべき姿」を見失った場当たり的なデジタルシフトで、むしろ現場の疲弊度が高まっている傾向は否めない。この局面で最も強いのは、「基本」がしっかりしているセンターだ。業界を代表する識者の見解、事例各社の取り組みから「令和のリソースマネジメント」を検証する。
人不足が続くなか、「つながらない」電話窓口が増えている。長時間待った末につながっても、オペレータのスキルが足りず解決しない──ここまでくると、もはや顧客接点としてほぼ機能していないといえる。
コンタクトセンターの運営は、必要な業務ボリューム(呼量)を予測し、それをもとに必要な要員数を算出、スキルを有したオペレータをその人数分アサインするという「リソースマネジメント」が基本だ。本来は、「サービスレベル:X秒以内にY%のコールに応答する(Y/Xで表現)」というKPIを達成するため、アーランCという数式をベースに必要要員数を算出するが、多くの国内企業は、「応答率」という結果指標だけを見て、場当たり的に人材を配置している。また、15分単位で呼量を予測し、繁閑に合わせて人数を調整する、欧米では当たり前とされる精緻なリソースマネジメントを実践する国内企業も少ない。結果、「応答率という、企業視点でしかないKPI」は達成していても、顧客は「つながりにくい」と感じる、サービス提供側と受け手のギャップが生じている。
つながりやすさは、顧客満足度に大きく影響する。つながりやすいコンタクトセンターを実現するには、運営の基本に立ち返り、リソースマネジメントを徹底することが不可欠だ(図1)。
Part.2 <ケーススタディ>
電話対応の慢性的な人手不足に加え、顧客のニーズも「都合のいい時間に自己解決できる」「チャットやメールで手軽に問い合わせたい」など電話以外の解決方法を望む傾向は強い。企業側でも、問い合わせを防ぐための情報発信や自己解決の促進、問い合わせに至るまでの導線の見直し、AIを活用した生産性向上などの取り組みが進んでいる。限りあるリソースで高品質のサービスの提供を目指す4社の取り組みを検証する。
人手不足とチャネルの多様化により、リソースマネジメントは難易度を増している。
限られたリソースでサービス品質を維持するため、多くの企業が取り組んでいるのが、(1)チャネル最適化、(2)1人あたりの生産性向上、(3)自己解決の促進だ。具体的には、あらゆる問い合わせを電話のみではなく、チャットボットや有人チャットなどでも対応。コールリーズンごとに最適なチャネルに誘導することで、エフォートレスなCX(顧客体験)を実現するとともに、オペレーションの効率化を図る。また、生成AIを活用し、応対履歴の入力やメール文の作成など業務の一部を自動化する。自己解決できる環境の構築や、先回りした情報発信によって、そもそも問い合わせの発生を防ぐ。必要なリソースに合わせてコンタクトを“コントロール”する取り組みが進みつつある。4社のアプローチと具体的な手法を検証する。
チャネルを「選ぶ手間」を省く!
コールリーズン分析で導線を最適化
セブン銀行の口座に関する問い合わせを受け付ける窓口では、電話とメール、チャットで対応している。顧客が好みのチャネルを選べるようオムニチャネル化を進めてきたが、2022年、コンタクトリーズンごとに最適なチャネルに導くよう導線を見直した(図2)。
Webサイト全体をリニューアルし、カラクリのAIチャットボット「KARAKURI chatbot」を導入。結果、問い合わせの7割を占めていた電話は大幅に減り、現在は電話とノンボイスチャネル(チャットボット含む)の比率が3:7と逆転している。口座数が4年間で1.5倍に増えた一方、オペレータの席数は横ばいで推移できている。
チャットボット×ボイスボット
自動化と人材育成で生産性向上
証券会社のコールセンターは、呼量予測の難易度が非常に高い。動向が読めない市況に大きく影響されるためだ。
SMBC日興証券は、問い合わせの約9割を電話で対応している。メールやチャットは、電話に比べると少ないが、チャットボットで一部を自動化(図3)。電話も、IVRやボイスボットによる自動化を進めている。
証券会社のオペレータには証券外務員資格が必須で、人材定着は大きな課題だ。同社は、2021年、オペレータの回答支援を行うソリューションを導入。対話内容からオペレータが次に発話すべき最適な回答候補をAIが提示する仕組みだ。これにより、応対品質や生産性の向上、新人育成期間の短縮を実現した。
電話はコールバック予約のみ!
先回りサポート×自己解決でCX向上
さくらインターネットは、CX向上とリソース最適化の観点で、カスタマーサポートの体制を抜本的に見直した。取り組んだ施策は、(1)電話対応はすべてコールバック予約(画像1)に切り替え、(2)ノンボイスチャネルへの導線を強化、(3)運営のインハウス化の3つだ。
問い合わせは、メールとチャットでそれぞれ約4割ずつを占め、残りの2割が電話対応だ。ノンボイスチャネルはマルチスキルで運用し、チャットが混み合う時間は要員数を厚くするといった調整を行う。メールは、フォームで用件のカテゴリを選択させるため、カテゴリごとに優先順位をつけ、調整している。
人材育成×ナレッジの充実
BPOと二人三脚で目指す業務効率化
楽天トータルソリューションズは、楽天モバイルのカスタマーサポートを担っている。問い合わせの多くは、「my楽天モバイル」というスマホアプリ(画像2)から受け付ける。主なコンタクトチャネルは電話とチャットで、一部メールでも対応している。チャットは70%以上を、チャットボットで対応する。
予測業務量は事業計画の影響も受けるため、中長期計画を基に3年分の予測を行い、拠点や人員計画も立てている。契約者数の増加などによって増える部分と、ノンボイスシフトや自己解決の促進によって減る分を考慮し予測。担当者が専任しており、基本的に±5%以内という高い予測精度を維持している。