コラム
第151回
ある土曜日の夜、突然、歯の詰め物が取れてしまった。翌週の月曜日の朝に、かかりつけの歯科医に電話すると、基本的に今週は予約でいっぱいと言われた。唯一、予約が取れるのが、その日の15時とのことである。何とか予約できる時間を見つけてくれた印象だ。痛みはないが、歯に穴が開いた状態で1週間以上、生活したくなかったため、その日の15時に行って、代わりの詰め物をしてもらい、しばらく耐える覚悟をした。その時間に歯科医に行くと、忙しそうに先生が同時に複数の患者を診ているのが分かる。無理に予約を入れてもらったと感じた。少し待ったあと、詰め物を見せ、歯の状態を確認してもらった。結局、取れた詰め物をそのまま入れられることになり、なんと、その1回で治療が済んでしまった。もちろん、仕事も丁寧である。予約でいっぱいだったから、2週間くらいは歯科医に行く覚悟だったが、1回で治してもらえて大満足だ。会計では、「また来ますと先生にお伝えください」と冗談を言った。仕事が速い歯科医は、混むのだろうと感じた。
つい先日、ある銀行から封書が届いた。利用頻度は高くない銀行だが、これまでも取引報告の通知が届くときがあったので、今回も同じかと思いながら開封すると、手紙が1枚入っていた。「個人情報漏えいに関するお詫びとお知らせ」というタイトルである。私の口座番号や氏名、住所などの個人情報が漏えいしたという報告にとても驚いた。状況から察するに漏えいの規模が大きいことがうかがえる。2カ月以上前にホームページで公表していたと書いてあるが、私は知らなかった。銀行のホームページを小まめにチェックする人がどれだけいるのか。2カ月以上も個人情報が漏えいした事実を知らされなかったのである。書面によると、漏えいした個人の特定に時間がかかったというが、それは仕方ないとしよう。しかし、銀行口座を持つ人に迅速に一斉メールを出して、注意喚起する必要はなかったのだろうか。今は、毎日のようにフィッシングのメールが届く。凶悪な強盗も起きている。書面には、これまで悪用されたという事実は確認されていないとある。しかし、「この2カ月間、口座保有者に個別に知らせることなく様子を見たが、何も起きていないようだ」と言っている気がする。利用者の心理を理解しているとは思えない。「悪い情報ほど早く報告する」──新人研修などでもしつこく言われることだ。
電車に乗っていると、車両が緊急停止することがある。日本の鉄道は時間に正確だから、緊急停止が起きると予定に遅れそうで慌てる人も多いと思う。緊急停止すると、間髪入れずに「異常を知らせる信号を受信した」「駅で非常停止ボタンが操作された」などの理由がアナウンスされ、安全が確認され次第発車するということも告知される。もう慣れてしまったが、もし、このように迅速なアナウンスがなかったら、沈黙した狭い車内で乗客は不安になっていくだろう。緊急事態を防ぐことは難しいとは思うが、このような迅速な案内が人を安心させる。
さまざまな要因でイレギュラーは発生する。その際の迅速な案内や対処で、その会社や組織の本質が見える。