リコーITソリューションズ
リコーグループは「売り切りからリカーリングへ」という戦略を体現すべく、顧客の声(VOC)やニーズを反映したサブスクリプション商品を開発、同時にカスタマーサクセスを組織化した。カスタマーサクセスプラットフォームをはじめとするITソリューションを積極導入、データを活用したオンボーディング支援、アップセル/クロスセルを実践している。「企業競争力を高めるカスタマーサクセス」の組織づくりの道程を聞いた。
リコーグループは、デジタル複合機やネットワーク関連機器をはじめ、さまざまなITソリューションをグローバルで提供している。近年は「売り切りからリカーリング(サブスクリプション型)へ」というグループ全体戦略に基づき、提供ソリューションを拡充している。
顧客企業のDXに関する課題に最前線で向き合うのが、グループ内企業の営業およびカスタマーサクセス部門だ。顧客対応はグループをまたいだチームを組成して実践、シナジーの最大化を図っている。例えば、リコージャパンの営業担当と、開発を担ったリコーITソリューションズのカスタマーサクセス担当者らが数名でチームを組む。顧客へのヒアリングで得た情報を、各々社内に持ち帰り、企画や開発など関連部門と連携し、プロジェクトを推進している。
グループを代表する開発会社であるリコーITソリューションズは、このようなグループをまたいだDX対応に加え、「クライアントの需要に基づく商品開発」に取り組んできた。顧客へのヒアリングなどを通して商品化したのが、「RICOH 受領請求書サービス (旧:RICOH Cloud OCR for 請求書)」と「RICOH kintone plus」だ。前者は、OCRを活用して手書きや活字の書類をデータ化し、企業間の請求書や納品書などのやり取りを電子化するもの。後者は、サイボウズと協業したクラウドサービスで、ノーコードで自社業務に合わせたシステムを構築する。いずれも、SMB(中小企業)を主な対象として展開中だ。
製品開発・改善を重ねるうえで重要な機能を果たしてきたのが、同社のカスタマーサクセス部門で収集される「顧客の声(VOC)」だ。リコーITソリューションズ デジタルサービス&プロダクツ事業本部 CXS(カスタマーエクスペリエンス&サクセス)推進室 室長の山本敏弘氏は、「VOCは取得するだけではなく、社内に還流すること、そして製品開発部門がそれに深く関心を持ち、積極的に取り込む体制・仕組みがあることが有効活用の条件です」と強調する。一方でVOCは人による精度のバラつきがあり、「企画・開発部門が欲しい情報が得られない」という課題があった。そこで、顧客との会話の中で必要な情報を引き出し、やりとりの結果を自動で分析・要約する仕組みを導入し、ハイタッチのデジタル化に取り組んでいる。
この商品開発は、立ち上げ当初から順風だったわけではない。「初期はプロダクトも未熟で、顧客への導入に苦戦、企画開発やカスタマーサクセス部門のメンバーも商談支援、つまり営業の一部を役割としていました。苦労もしましたがその際に直接、顧客にヒアリングした経験は、現在、カスタマーサクセスを志向するうえで欠かせない“顧客理解”に生きています」(山本氏)
現在のカスタマーサクセスの主な役割は、一連のソリューションに関するオンボーディングとエクスパンション(アップ/クロスセル)だ。個社ごとにソリューション利活用のジャーニーマップを作成し、サクセスストーリーを設定、ハイタッチで支援している。今後の課題は、「すべての顧客に一律でハイタッチ対応している状況からの脱却です。デジタルアプローチを強化し、自己解決できる環境を整備しながら、その中でも必要なシーンに応じてヒューマンアプローチによる対応をデータに基づいて把握できるようにしたい」(山本氏)。具体的に検討しているのが、顧客の状態に応じて迷わず操作できるUXをサービスに組み込むことで、省力化はもちろん、問題解決の迅速性向上といったCX(カスタマーエクスペリエンス)への効果も期待できそうだ。
2024年4月には、組織体制を再編。従来、カスタマーサクセスなどの戦略立案を行う「事業戦略室」とカスタマーサクセスを実践する「開発センター」に分かれていたが、人材および機能(役割)を集約し、企画機能とカスタマーサクセス機能を一体化。新たに「CXS(カスタマーエクスペリエンス&サクセス)部門」を新設した(図)。所属人数は10名だ。
同社で培いつつあるカスタマーサクセスの実践ノウハウは、グループ内の他の会社でも横展開されつつあり、「グループ内のサクセス部門を支援している段階」(山本氏)という。さらに今後に関して山本氏は、「開発会社の強みを生かし、AIやデータドリブンなカスタマーサクセスソリューションをサービス化したい」と自社ノウハウの商品化を視野に入れている。とくに同社と同じく大企業やグループを形成する企業が対象となりそうで、カスタマーサクセス市場の拡大にも貢献できそうだ。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年7月号 掲載)