「カスハラ」を未然に防ぐ!
“初期消火”のルールと準備
Part.1 <現状と課題>
「これを言ったら顧客ではない」を社内外に明示
“組織対応”が貢献するブランディング
「『できればコールセンター以外』という登録スタッフが多い」(派遣会社)、「コールセンターはやめた方がいい」(大学の就職相談)──このような評価の最大の原因が、「カスタマーハラスメント案件の巣窟」という“印象”だ。超・人手不足時代に突入した現在、経営陣やマネジメントの「従業員を守る姿勢」こそが、あらゆる意味で企業ブランドを守る。識者、専門家の知見と事例企業の取り組みから「カスハラ対策」を検証する。
コロナ禍、社会全体に大きなストレスがかかった結果、小売りや介護などさまざまな現場で、カスタマーハラスメントは社会問題化している。コールセンターも例外ではなく、編集部が実施したアンケートでは、「過去5年以内にカスタマーハラスメントに該当する対応があった」という回答が約40%を占めている(図)。
2022年2月、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」を作成、公表した。
同マニュアルをベースに示す、コールセンターでの具体的なカスタマーハラスメント対策は、(1)自社のカスタマーハラスメントを定義、(2)定義したカスタマーハラスメントに対する対応方針を策定し周知徹底、(3)カスタマーハラスメントが起こった時のマニュアルの作成、(4)カスタマーハラスメントを未然に防止するための従業員教育──の4つがある。
図 過去5年以内に、センターでカスタマーハラスメントに該当する対応を行った経験(n=33)
Part.2 <ケーススタディ>
転送・切電・フォローアップ──
明確なルール作りで現場を守る4社の挑戦
コールセンターは、顧客のいかなる声にも真摯に耳を傾ける。この姿勢は大事だが、暴言や罵声を浴びせる悪質なクレーマーにも同じ対応をすべきと、オペレータに強いてはいないだろうか。厚生労働省がカスタマーハラスメント対策の指針を示したことで、企業も顧客への対応方針を明確にし始めた。カスタマーファーストを志向しつつも、理不尽な要求には毅然な態度を示す。実際の事例や取り組みを、通信販売や金融、通信の4社から聞いた。
CASE STUDY 1:生活総合サービス
“カスハラ”を寄せ付けない企業文化を体現
シンプルな動線、社員ファーストの経営方針
健康食品などの通信販売「ていねい通販」を手掛ける生活総合サービスは、驚くほどクレームが少ない。
その背景には、「商品やブランド思想を理解してくれる顧客との関係」を重視する経営理念が関連する。同社では顧客を増やしたいがために、むやみに安価での販売はしない。へりくだった接客も行わない。その結果として、自ずと“カスハラ体質”な購買者を寄せ付けない企業文化を生んでいる。
CASE STUDY 2:きらぼし銀行
指針を示し「お墨付き」を与える
現場に安心感を与える本部の支援
きらぼし銀行では、カスタマーハラスメントについて、支店やセンターなど、連絡を受けた部門が責任を持って完結することを目指している。
そのため、支店やカスタマーセンター、お客さま相談センターなどの各窓口に入った苦情について、対策本部となるリスク管理部が相談に応じ、適切な対応方法をアドバイスする。また、同部の責任の下に、各部門がアドバイスを実行することで現場に安心感を与えている。
CASE STUDY 3:松井証券
現場を守る組織を構築
一次対応者に“無理をさせない”体制
松井証券では、コールセンター業務をパートナー企業とともに運営している。カスタマーハラスメントについても、パートナー企業と一体となり対応している。
コロナ禍でセンターがリソース不足に陥ったことから、応対に関する体制を見直した。オペレータが解決できないクレームは、お客様相談室にすべて集約する。厳しい苦情を受けていた経緯もあり、相談室がクレームの初期段階から引き受けることで、早期解決とセンターの業務効率の向上を図る。
CASE STUDY 4:楽天モバイル
カスハラへの指針を策定し社内に浸透図る
現場が安心して働けるルールを作る
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を受けて、楽天モバイルもカスタマーハラスメントの指針をまとめた。
対策マニュアルを策定し、暴言や威嚇などカスハラの定義づけも行った。現在は、社内に向けて指針の浸透を図っている。
顧客へ応対するコミュニケーションセンターを含め、運用ルールを社内で見直し、緊急時にはオペレータの判断で切電できるルールを新たに追加した。