2018年6月号 <特集>

特集扉

「マイナスの顧客体験」を予防する
デジタル・エクスペリエンスの改善

Part.1 <現状と課題>

基本は電話対応と同じ!
最大の要諦は「コンタクトリーズン」の把握

最初の顧客接点であるWebサイトやスマホアプリ。顧客にとっては、そこで問題解決、目的を達成することが「最上の体験」といえる。デジタル・チャネルの使い勝手を向上するには、「動線」と「表現」の改善が欠かせない。有人チャネルであるコールセンターは、その改善をもたらす最大の素材を持つ。FAQの運用やチャネル選定のポイントを整理するとともに、コールセンターの役割を再考する。

 に、購買活動を中心としたカスタマージャーニーのモデル例を示すが、ほぼすべてのプロセスがWebで完結できることがわかる。言い換えれば、これまで非対面顧客接点の主役だった電話(コールセンター)の出番は劇的に減少しているということだ。航空業界や通信販売、エンタテインメント系のチケット予約、自動車保険、通信サービスなど、「人を介さないサービスの充実」が成長要因のひとつになっていることは否定できない事実だ。

 Webにおける顧客体験──デジタル・エクスペリエンスを最適化するには、「徹底した顧客視点」が欠かせない。よくある質問(FAQ)の作成や更新だけではなく、顧客接点の全体像を把握したうえで改善ポイントを抽出する役割を誰が担うにせよ、コールセンターに蓄積した知見は欠かせない資源だ。それを活かす具体的方法を検証する。

図 チャネルの利用状況を示したカスタマージャーニー例

図 チャネルの利用状況を示したカスタマージャーニー例

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Part.2 <ケーススタディ>

顧客視点で痛点をつぶす──
先進4社の挑戦に見る「最初の接点」の強化

Webサイトの膨大なコンテンツをナビゲートする工夫こそが、“デジタル体験”を向上する最大のポイントとなる。センターが大きな役割を果たしているソニー損保や静岡銀行、ベルトラ。従来とはまったく異なるアプローチで「毎日使うサイトやアプリ」への進化を目指すANA。4社の取り組みには、「いかに真の顧客視点を全顧客接点のマネジメントが共有するか」への工夫が共通している。

CASE STUDY 1:ANA X

マイル、ショッピング、情報サイトまで
日常体験を提供し「ANA経済圏」確立を目指す

 ANAマイレージクラブの企画運営をはじめ、同グループのマーケティングの多くを担うのがANA X(エーエヌエー エックス)だ。顧客戦略部の冨満康之部長は、「従来のWebサイトは、飛行機を利用するときにだけ訪れてもらう“機能中心”のコンテンツでした。それを、日常的に利用してもらうサイトに進化させることが大きな目的」と方針を説明する。

 取り組みの軸は、「Webサイト改革」と「顧客データ活用」だ。Webサイトは、単なる航空券の検索・予約だけでなく、マイレージ会員を主な対象とした“生活コンテンツ”を強化。ショッピングやコラムなど、さまざまなコンテンツをラインナップしている。重視しているのは「一体感」で、こうしたポータルサイトにありがちな「管轄組織が異なることによるバラつき感」を排除する工夫を施している。データ活用は顧客の行動、CRM(購買)、属性、利用(搭乗)といった顧客データの統合を進めつつある。

CASE STUDY 2:ソニー損害保険

Web・センター・紙媒体──
“オール顧客接点”のデザイン作り

 ソニー損保では、2015年に「CXデザイン部」を創設、手続きごとのカスタマージャーニーマップに従い、顧客接点全体を横串でみて、顧客体験をデザインしている。例えば“新規見積り”などテーマを決め、顧客がどういうプロセスを踏んで手続きをするかを、カスタマージャーニー視点で時系列に再現。その最中にカスタマーセンターに電話するとしたら、その理由は何かの仮説を立て、コールをモニタリングしながら事実確認を行う。FAQがわかりにくい、Webの操作が難しいなど実証を得ながら顧客接点の改善を進めている。

 チャネル同士の連携、デザインしたカスタマージャーニーに問題ないかを確認するのがCES調査(Customer Effort Score:顧客努力指標)だ。トランザクションごとに「この手続きは想定よりどのくらい手間がかかりましたか?」と質問して11段階で回答してもらう。チャネル連携が悪ければスコアが下がるため改修案件となる。また全社的な顧客ロイヤルティの評価にはNPS(Net Promoter Score:推奨意向度)を採用している。

CASE STUDY 3:静岡銀行

ブラウザ共有からチャットボットまで
“使いやすく迷わない”Webサービスに一新

 現在、銀行では店頭への来店客が減少し続けており、都銀・地銀を問わず、非対面チャネルの強化で新たな接点作りを推進するところが多い。言い換えれば、デジタルチャネルの強化こそが、長く続くマイナス金利時代を勝ち抜く最大のポイントと捉えられている。

 静岡銀行では「チャネル・IT基盤を活用したセールス業務の変革」を戦略に掲げ、Webサイトやスマホアプリなど、非対面チャネルの顧客体験の強化に乗り出している。このトリガーとして、今年3月にWebサイトのリニューアルを行った。新サイトでとくに配慮したのは“顧客が迷わない動線”の確保だ。サポートコンテンツも充実。FAQを刷新したうえで、チャットボット『バーチャル行員』を装備し、対話形式でもFAQを検索できるようにした。またネットバンキングなどのサポートに『画面共有サービス』を開始。オペレータはポインターや音声によるガイドを行いながら顧客の操作を支援する。

CASE STUDY 4:ベルトラ

コンタクトリーズンを「タグ化」
検索しやすいFAQを実現した“動線改革”

 旅のアクティビティ(オプショナルツアー)に特化した予約サイトを運営するベルトラ(東京都中央区、二木 渉社長兼CEO)。予約できるツアーは、実に1万4000種類を超える。同社では2018年3月、サポート向けサイトをリニューアル、「わかりやすいFAQコンテンツ作り」を念頭に再構築した。

 ポイントは、「問い合わせしやすい動線」と「FAQの検索しやすさ」。問い合わせは、すべてのFAQコンテンツに問い合わせボタンを設置したうえで、問い合わせ直前には改めてカスタマージャーニーを踏まえたQ&Aを分類・表示し、わかりやすさを追求している。FAQは、よくあるカテゴリサーチではなく、「タグサーチ」を採用。顧客がよく使う言葉(コンタクトリーズン)をタグで表示し、さらに複数のタグを選んで検索することで、「何をどう聞いていいのかわからない顧客」でも目的のコンテンツにたどりつきやすい構造に改変した。効果測定のためのKPIも用意し、CSと効率化を両立している。